憧れとロマンに触れる大人の秘密基地。ヴィンテージショップ「アメ車庫」

鎌倉駅から歩くこと15分、鎌倉山の麓に1軒のガレージハウスが見えてきました。店先には、コーラの自販機やインダストリアルな雑貨、愛くるしい玩具など、アメリカンなアイテムが置かれています。

店内に入ると、食器、家電製品、インテリア、洋服、レコード、雑誌、サインボードに私書箱まで、溢れんばかりのヴィンテージ品が…。秘密基地にたどり着いたような高揚感に包まれます。

店舗に並ぶヴィンテージ品はオーナーである渡邊善忠さんが半世紀近くに渡って集めてきたコレクションなのだとか。なにやら素敵な想いが詰まっていそう…。明るい笑顔と軽やかなトークで出迎えてくれた小山真理子店長にお話をうかがいました。

  • 店長の小山真理子さん

アメリカ文化を愛したオーナーとヴィンテージ

「アメ車庫」は、オーナーの渡邊さんがアメリカで生活し、収集してきたコレクションを展示販売する場所として2010年にオープンしました。

渡邊さんは、若い頃からアメリカ文化に魅了され、自身もウエスタンバンドを組み活動していたそうです。大学卒業後は芸能プロダクションに勤め、1960年代に人気を博したグループ・サウンズバンド「ブルー・コメッツ」のマネージャーを担当するも、30歳を目前に憧れの地でもあったアメリカへ渡ることを決意。

世界を舞台にした渡邊さんは、アメリカのほか、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどでいくつかのスモールビジネスをスタートします。なかでも、当時のアメリカでは普及していなかったFAXに目を付けて設立した、電話とFAXのシステムを販売する会社は、特に大きな成功を収めます。

これらのビジネスで多忙な時も、週末にはヴィンテージショップをまわる日々だったといいます。そして、セミリタイア後はコレクターとしてアメリカ各地を旅しながらヴィンテージ品を集めているのだそう。

  • オーナーの渡邊善忠さんが各地で集めたヴィンテージ品

「アメ車庫」の誕生

45年間かけて集めた渡邊さんのコレクションは膨大な量に。アメリカの自宅にも置き場がなくなったことから、コレクションの一部を保管できるよう、親族が所有していた鎌倉の土地にガレージを設けます。

それでも増えていくヴィンテージ品に、ガレージは埋め尽くされていきます。破棄を迫られる中で渡邊さんは「ヴィンテージを愛する人に大切なコレクションを引き取っていただけるのであればそれが一番幸せだ」と考え、ガレージを店舗にして「アメ車庫」をオープン。こうした想いから誕生したお店であるため、儲けなどは気にせず、渡邊さん自身が買い付けた時の価格とあまり変わらないよう商品の値付けをしているのだそう。

「アメ車庫」は売ることを目的とした場所ではなく、アメリカの文化やヴィンテージ好きな人が集う場、渡邊さんの愛したヴィンテージをつなぐ場としてつくられたお店だったのです。

  • 店内に足を踏み入れると童心に返ったようなわくわく感を覚える

探す楽しみを味わえる空間に

ヴィンテージは“探す”という行為そのものが楽しみでもあります。「アメ車庫」では、こうした感覚を味わえるよう、コレクターのガレージそのままに幅広いラインアップのヴィンテージ品を所狭しと並べています。

一方で、所々に設けられたディスプレーには、オープン間もない頃からお店づくりを担ってきた店長・小山さんのこだわりが光ります。食卓や書斎の1コマから特定の時代や地域を感じられるディスプレーなど、こちらの想像を掻き立てるような演出が施されているのです。

「頻繁に通ってくださるお客様も多いので、いつ来ていただいても発見があるようにお店づくりをしています。見たことのないもの、知らない世界に出会っていただけたら…なんて考えると私も楽しくなってきちゃうんです」と小山さん。

ディスプレーを見て当時のアメリカに想いを馳せる、そんな楽しみ方もヴィンテージならでは。店内にいると時を忘れて、その世界に浸ってしまいます。

「ここはお客様に好きなものと出会っていただく場。ですから、購入を勧めるような接客はしません。それぞれの楽しみ方をしてもらえればいいんです(笑)」と小山さん。

  • 食卓での利用シーンを表現したディスプレー

  • とある時代の書斎を覗き見たような展示も楽しい

アメリカがまるごと詰まったコレクション

店内に並ぶヴィンテージ品は、男臭さを感じる品から、柔らかなデザインの食器やインテリア、歴史や文化を感じるインディアンやハワイのコレクションまで幅広くラインアップ。

「ヴィンテージにも売れ筋やその時の流行のようなものはあります。ただ、この店ではそうしたことは気にせず、オーナーが魅力を感じた品々を幅広く並べています。文化、地域性など、さまざまな顔を持っているのもアメリカの楽しさ。それを味わっていただきたいですね」と小山さん。

初めてお店に来た際、“これ、誰が買うの? ”なんて話していたお客さんも、何度か通ううちに、その品に心惹かれて購入していく、なんてこともあるのだとか。

「お客様からは“アメ車庫沼”なんて言われています(笑)」と小山さん。

  • インディアン関連の品が並ぶコーナー

  • 若い世代にもファンがいるエルビス・プレスリーのレコードが並ぶ

アメリカンヴィンテージに感じるロマン

コレクターも多いアメリカンヴィンテージですが、その魅力はどこにあるのでしょうか。小山さんに尋ねてみました。

「人によってさまざまな感じ方があると思いますが、日本が憧れたアメリカがそこにはあるのかもしれませんね」

勢いがあり、活気に満ち溢れたアメリカに触れる。当時、今より(心的に)遠かった地で築かれた文化に触れる。そこに人々はロマンを感じるのかもしれません。

例えば、日本でも人気の高いアンカーホッキング社の「ファイヤーキング」という耐熱ガラスブランドがあります。同ブランドは、1941年から1986年にかけてアメリカで生産されたのですが、この時代、経済成長とともに人々は暮らしを楽しむようになっていきます。

そんな時代、安価でありながら品質にもこだわった同ブランドは、多くの家庭で使われるように。また、さまざまな企業のノベルティとしても配られることで、人々の生活に広く浸透していきます。「ファイヤーキング」に豊富なシリーズや企業コラボが出されているのにはこのためだといいます。

筆者はアメリカンヴィンテージには疎いのですが、小山さんに品物にまつわる物語をうかがう中で胸の高鳴りを感じていました。1つ1つの品に刻まれた時代を感じる、ヴィンテージの楽しさに触れた瞬間でした。

  • ファイヤーキングのコレクションは幅広い層に人気がある

  • ウランが原子力に使われるようになる1940年までの間に製造されたウランガラスの食器

同好の士が集う場所

オープンから11年、「アメ車庫」はオーナーの想いのとおり、同好の士が集う場所となっています。同店で出会ったお客さん同士が、店先でお茶会をするという姿も日常になっているのだとか。

「老若男女、立場も異なるお客様がこの場所では、同じ趣味を持つ仲間として心を許しておしゃべりを楽しんでいらっしゃる。皆さんがつながってくれることがとても嬉しいですね。私自身もこの場所でしかない出会いが宝物になっています」と小山さん。

ヴィンテージとの向き合い方を通して、お客さんから学ぶことも多いそうです。

「あるお客様が“ヴィンテージにお金を払う、それはレンタル料だと思うんだ。今の時代にその品を受け継ぎ、次の世代に渡していく。それはヴィンテージを愛する僕らの役目なのかもしれない”とお話してくださったんです。すごく素敵な物事の捉え方で、今も心に残っています」と小山さん。

こうして同好の士と想いを共有し語り合う時間も「アメ車庫」のかけがえのない宝物となっているようです。

  • ヴィンテージ品を囲み、店先でお茶会が開かれるなんてことも

心を軽やかにする遊び場

「アメ車庫」を訪れて感じたことは、“人とモノ、そして想いが交わる場所”であるということ。人々の心の中にある憧れやロマンがそこにはあり、その想いを分かち合うことができる、そんな場所でした。

「オーナーが大切にしていることでもありますが、ヴィンテージの魅力を皆さんと共有し、楽しんでいただける場であれたらと思っています。ほっこりできる場所として緩くやっていますので、いつでも遊びに来てくださいね」と小山さん。

たくさんの愛情に包まれている「アメ車庫」で、日々の喧騒を離れ、オーナーの見てきたアメリカに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

  • 「巣立ったヴィンテージ品がお客様の暮らしを彩っている姿を見ると嬉しくなる」という小山さん

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