湘南で暮らす人々

小さな単位から生活・文化を豊かに。思考が交わる映画館「CINEMA AMIGO」で館長・長島源さんが届けたいこと

逗子海岸ほど近くの閑静な住宅街を歩いていると、木造の可愛らしい建物が見えてきました。街の小さな映画館「CINEMA AMIGO」です。中に足を踏み入れると、年代物の椅子やテーブルが並ぶ、どこか懐かしさを感じる空間が広がっています。

こちらの映画館、上映している作品にも特徴があります。環境問題、人種や民族の問題などを題材にしたものから、人々の暮らしを追ったドキュメンタリーやエンターテインメント作品まで、どれも心に大切な何かを残してくれる作品ばかり。

「CINEMA AMIGO」にあるのは、映画の世界に身を置き、自分と向き合う贅沢な時間。ここには、作品を通して人々と対話し、思考するきっかけを提供していきたいという館長・長島源さんの想いがありました。

  • カルチャーの発信拠点として地元の人にも愛される「CINEMA AMIGO」

映画は1つの手段。考える場をつくりたかった

“街の映画館と聞くと、相当な映画好きの方が始めたんでしょう? ”、そのように思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「皆さん、そんな風におっしゃるんですけど、映画はあくまで1つの手段だったんです。大事なのは考え、行動を起こすきっかけとなる場であること。映画は、内容次第で皆さんにいろいろなことを考えていただけると思ったんです」と長島さん。

筆者が鑑賞した「0円キッチン」という映画では、食料廃棄に関する課題が描かれていて、上映後にはお母さんが世界で何が起こっているのかをお子さんに説明している姿が見られました。

後ろのバースペースでは、映画鑑賞後に長島さんとお客さん、またはお客さん同士が語り合うなどの光景がよく見られるそうです。

  • 地域の人から譲り受けた家具が並ぶ館内。映画に没頭できる空間

  • バースペースで長島さんと話す時間を楽しみにくるお客さんも

自分たちの手で地域を豊かにするために動く

長島さんは、なぜこのような場をつくろうと考えたのでしょうか。きっかけは、湘南エリアのプロサーファーやミュージシャン、アーティストによって始まった「WAVEMENTツアー」へ参加したことでした。

「WAVEMENTツアー」は、青森県・六ケ所村の核燃料再処理工場の問題を取り上げ、ライブや映画上映、トークイベントを行いながら各地を回るというもの。ここで環境問題、エネルギー問題について、皆で考えることの重要性を感じた長島さん。一方で、あるもどかしさを覚えたそうです。

「エネルギー問題を考える中で反原発に関する署名運動を行い、100万人の署名が集まったとして、国に持って行っても変わらない…そうしたケースのほうが多いんです。中央依存ではいけない、そのことを実感しました」

長島さんは、こうした経験から、まずは小さな集団であっても、自分たちのコミュニティから、そして地域から、文化的・エネルギー的・食的にもインディペンデントなライフスタイルを実践していくことのほうが意味を持つのではないかと考えます。

「国という単位ではなく地域間の関係“インターローカル”に目を向けて、より小さな単位での生活・文化を豊かにし、それを分かち合うことのほうが価値あることだと思ったんです」

そうした暮らしを皆で考え、ともに行動を起こせるきっかけとなる拠点として、「CINEMA AMIGO」を設立したのです。

  • 「CINEMA AMIGO」に隣接するカフェ&デリカテッセン「AMIGO MARKET」では地域食材を使ったランチなども提供

  • 「AMIGO MARKET」では、ヴィーガン食やオーガニック食材なども販売。食・暮らしについて考える場となっている

自身の葛藤から生まれた想い

「CINEMA AMIGO」が大切にするのは、一方的に主張することではなく、そのテーマを共有し“思考すること”。そこには長島さんの経験からくる想いがありました。

長島さんが20歳を過ぎたころ、高校時代に結成したバンドの楽曲がインディーズチャートにランクインするなど注目されるようになったそうです。

「メジャーデビューも見えてきていたのですが、どこか歌っていることとその時の自分自身の間に乖離があると感じていたんです」

長島さんは自分自身のアイデンティティが揺らぐような、大きな不安や葛藤の中にいたそうです。自身の気持ちの整理がつかなかった長島さんは、これまでの考えを一度捨てることも必要だと感じ、より多くの思考・モノの見方に触れるため、さまざまな国を巡る旅へ向かいます。

インドでは、実験型エコヴィレッジを実践している「オーロヴィル」を訪ねたといいます。オーロヴィルは国籍や宗教など関係なくすべての人が調和的な暮らしを営めるよう創設され、自給自足を目標に持続可能な農業や資源節約の取り組みを実践している場所。その他にも、中国、インドネシア、ヨーロッパ各地などを見て回ります。

「さまざまなモノ・コトに触れる中で“これが正しい”と思い込んでいたものでも、違う視点で見ると正しいとは言い切れないということに気が付いたんです」と長島さん。

さまざまな人々の思考に触れ、そこから自分自身で考えることで気付くことがある、そうした想いを強めていったようです。自らの主張を通すことが正しいのではなく、さまざまな考えを共有しよりよい価値に気付くことが大事。その想いが「CINEMA AMIGO」という形につながっていたのです。

  • ミュージシャンの顔も持つ長島さん。音楽を通して自分自身と向き合ってきた

「CINEMA AMIGO」という拠点から広がる活動

そのような想いから生まれた「CINEMA AMIGO」という拠点。今、そのコミュニティは広がりを見せています。逗子だけでなく、他の地域でもこうした場所を提供したいと移動式映画館「CINEMA CARAVAN」をスタート。親交のあったフォトグラファー・志津野雷さんが中心となり、海外も含め各地で映画の上映やイベント開催を行っています。

「『CINEMA AMIGO』はしっかりと地域に根差し拠点として情報を発信する、『CINEMA CARAVAN』は外とつながり広がっていく。こうして地域と地域がつながっていけばいいなと。逗子海岸で1年に1度『逗子海岸映画祭』という映画祭を開催しているのですが、ここでは外でつながった土地に関する文化の発信も行っていて、交流の機会にもなっているんです」

さらに、2020年には新たに、逗子に宿泊施設・シェアキッチン・コワーキングスペースとして利用可能な文化複合施設「AMIGO HOUSE」をオープン。観光客、働く人、地域の人が交わる場所として機能しています。

この「AMIGO HOUSE」では、「CINEMA AMIGO」の上映作品に合わせた授業(イベント)も開かれており、そのテーマについてより深く考えることができる機会を提供しています。

都会から越してきた夫婦が理想の農場をつくろうと奮闘するドキュメンタリー「The Biggest little farm」の上映に合わせた授業では、横須賀市にある無農薬・無化学肥料の農園「SHOFarm」の仲野翔さん・晶子さんご夫妻をゲストに迎え「オーガニック」や「サステナブル」について考えたそうです。

  • 映画上映、お店の出店、各種イベント開催で盛り上がる『逗子海岸映画祭』

  • 「CINEMA CARAVAN」で出会った国の文化を紹介するようなブースも

すべきことを見極め、深めるフェーズへ

「CINEMA AMIGO」を軸に、活動を広げてきた長島さん。今後はどのようなことを考えているのでしょうか。

「新たなことでなく、今までやってきたこと・考えてきたことを深めることが大事だと思っています」と長島さん。

例えば、長島さんが長年のテーマとしているサステナブルな暮らしに関して、オランダから始まったプラスチックごみを資源として再利用しようとするPPP(プレシャスプラスチックプロジェクト)を逗子においても実践しようと動いています。

「近年、SDGsが叫ばれていますが、明確に“何をすべき”とか“これが正解”とか言い切ることって難しいと思うんです。まずは自分で考えてみる、そしてささやかでもできることを実践する。そんな習慣が広まっていけば、変化が起こるかもしれません」と長島さん。

逗子で築いてきたコミュニティ、そして各地で広まったコミュニティ、地域間の取り組みから良い社会を考えていく。長島さんの活動は少しずつでも、着実に変化を生み出しています。

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