「もったいないですよ、雁字搦めになっちゃうと」対談:大西芳実x武田双雲(第3回)
湘南・鵠沼海岸にオープンした、オーガニックメニューを取り扱うカフェ「Chikyu(地球)」。書道家・武田双雲さんが開いたこのお店に、鵠沼の人気店「麺やBar 渦」の店主・大西芳実さんが訪れました。
第2回では、“日本とアメリカの文化を融合したラーメンを提供するギャラリー”というイメージが見えました。そして、今回のトピックは“ものづくり”。ラーメンと書道に対する流儀がそれぞれの口から語られます。
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アーティストは感動を目指すんだけど、だんだんと我が出てきちゃう(ミチコ)
大西:
作ったものをアートにするかしないかは、作り手の気持ち次第ですよね。自分は自分の商品を作品だと思ってます。
双雲:
でも、気持ちはとってもシンプルなんです。漢字の形、墨や硯とか、それを書くときのバランスにとにかく感動して、「みんな見てー!」っていう気持ちなだけ(笑)
大西:
(ラーメンでいうところの)「これ食べてー!」みたいな(笑)
ミチコ:
本当はアーティストってみんなそれを目指すんだけど、だんだんと逸れていっちゃうんだよね。我が出てきちゃうというか。
▲ 大西芳実さん(「麺やBar 渦」「麺や 渦雷」店主)
大西:
なんというか、一処に留まらないほうがいいですよね。自分の形に固執しすぎたくない。
双雲:
こだわりたくないですよね。なんかもったいないですよ、自分の型に雁字搦めになっちゃうと。
大西:
ただ、ファンに求められた形から離れていこうとすると、ちょっと足を引っ張られるような気持ちはありますよね。
実は、お店の味をガラッと変えようかって考えてるんです。自分が飽きちゃうと、作ることへのモチベーションがね。良いものが出来なくなっちゃうんで。
大切な根っこは変えずに、枝葉だけを変えていくというか。
いい物を見つけた時は本当にうれしいです(大西)
双雲:
それってファンからするとドキドキしちゃうようなことですけど、僕も「ファンの期待には一切応えません」って言ってますね。
でも……そうするとですよ。例えば2000年代の味を復刻したりすると、ファンは「うわ〜、あの頃の味だ!」ってなるんじゃないですか?
大西:
そうかもしれないですね。でもその頃の作り方をもう覚えてない(笑)
だって、この1年でもう6回もスープの作り方変わってるんですよ? その中でもちょこちょこマイナーチェンジしてるんで、年間で何回変わってるんだろう……もう数え切れないぐらい。
双雲:
エディーさんも、スープはこだわって作ってますね。彼の良いところは、彼自身がシェフっぽくないところなんです。たとえば、ある日僕のところに「双雲さん……こんなに良い豆が見つかったんですよ!」って興奮しながら持ってくるんです。もう子どもみたいに(笑)
▲ エディーさん(「Chikyu」シェフ)
大西:
いやー、いい物を見つけた時は本当にうれしいですからね。僕も良いスパイラルの中に居させてもらってるせいか、いい人やいい食材との出会いが続いてます。
双雲:
やっぱ、大西さんが作るオーガニックラーメンがいいよね。ただのオーガニックじゃつまらないけど、魂がこもってそうだから。
向こう(アメリカ)の土壌で、実際に1回やってみたいね。アメリカ人達の感動を見てみたい。僕らよりもラーメンに対して飢えてるだろうからさ。
大西:
そうですね。ラーメンは今や“カッコいい食べ物”になってますからね。
双雲:
……すげぇ、またラーメンに興味出てきた。こだわる方向が無限に広がってるよなー。
「お客さんを楽しませて飲ませる」っていうのが、普通にできる(エディー)
大西:
「オーガニックです」ってしっかり謳ってるものをちゃんと食べたことってあんまりなかったんですけど、改めて食べてみると美味しいですね。素材の味が活きていて…… 僕らみたいなラーメン屋が1杯作る時は、素材の味を本当に気にするんで。
エディー:
やっぱ、素材の味を最大限に活かしたいよね。あんまり手を加えないようにしてさ。料理にすると、ひとつひとつが大事になってくるし。
大西:
僕らの場合はそれをスープにするんですけど、素材本来の味や旨味を消さないように出汁を取るにはどうすれば……とか、そういう話になってくるんです。野菜の切り方ひとつで煮込む時間も変わってくるし、やりすぎると臭いも出てきちゃうし。
双雲:
いやー、そこまでこだわるとラーメン屋さんってそんなに儲からないでしょ?
▲ 武田双雲さん(書道家)
大西:
いやー、好きじゃなきゃやってられないですよ。1杯1000円とかで出せるならいいんですけどね。
エディー:
アメリカだと、(ラーメン1杯)1200円でもそんなに文句は言われないよ。食事にお金を出す習慣があるからね。それで、食べ物にプラスで何か飲むじゃない。それなりに(お客さんの)単価が上がるんですよ。
双雲:
向こうのお寿司屋さんとかビックリするよね。居酒屋みたいに100人、200人がギッチギチに入ってて、並んでる人たちもガンガンお酒飲んで、入ってもガンガン飲むんで、儲かり方が日本のお寿司屋さんの10倍ぐらいみたい。
エディー:
「お客さんを楽しませて飲ませる」っていうのが、本当普通にできるからね。
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至高のアートと魂がこもった1杯が、お客さんを楽しませるスペース。ラーメンのイメージを軸にして、お店の雰囲気も少しずつ見えてきました。
次回はいよいよ完結編。ふとしたひと言から繰り広げられる怒涛の展開をどうぞお見逃しなく。
湘南談義録 -SHONAN casual minutes-
気心知れた相手とのおしゃべり。時に笑いながら、またある時には込み上げるものを感じながら……それは湘南の暮らしをよく表しているひとときかもしれません。
この街の生活を彩るものとは、いったいどのようなものなのでしょうか。本コーナーでは、“湘南の良さ”としてしばしば挙げられる「つながり」をテーマに繰り広げられるトークをお届け。海薫るスローライフのエッセンスをご紹介します。
ライター情報
akira suematsu
湘南生まれ湘南育ちの純・湘南ボーイ。そのわりにサーフィンは未経験だが、鵠沼の海が世界で2番目に落ち着く場所である。まだ見ぬ湘南の魅力、そして多様なライフスタイルのあり方を求めて、ペンとカメラを両手に行動範囲を拡大中。
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