あの頃の“憧れ”が一皿に。「プリン王子M&K」が届けるなめらか濃厚プリンの幸せな味わい

茅ヶ崎駅から歩くこと15分程度、商店が散在するのどかな住宅街に小さなプリン屋さん「プリン王子M&K」はあります。週2日の営業日には、お店からカラメルとバニラの甘い香りが漂ってきます。

駅から少し離れた場所にあるにも関わらず、行列ができることも。ちょっぴりレトロなビジュアルのプリンとクリームソーダがSNS上で拡散され、遠方からもお客さんが訪ねてきているのだとか。

もちろん人気の理由は、見た目だけではありません。プリンの味わいに感動したお客さんが、その想いをシェアすることでじわじわとファンが増えているようです。多くの方々の心を捉えたプリンはどのように生まれたのでしょうか。店主の飯尾奈律代さんにお話をうかがってきました。

笑顔を見られる喜びがお店へ

プリン王子M&Kがオープンしたのは2018年のこと。その出発点は、お子さんとそのお友達の「おいしい!」という笑顔だったといいます。

奈律代さんは2人のお子さんのお母さん。お子さんやそのお友達のおやつに手作りのプリンを出したところ、絶賛してくれたのだとか。自分で作ったもので誰かが笑顔になってくれることの喜びを改めて感じた奈律代さんは、もっとおいしいものを作りたいとプリン作りに没頭していったといいます。

プリンは少しずつ理想の味へ近づき、以前から自分のお店を持ってみたいと思っていた奈律代さんは「プリンなら皆さんにも喜んでいただけるかも」と考えるようになったのだとか。そこから夢のために少しずつ資金を貯めていったという奈律代さんですが、開店時期については“子どもが自立してからで、まだまだ先のことかな…”と思っていたそうです。

しかし、その時はすぐに訪れます。なんとなく見ていた物件サイトで、現状でも借りられそうなところを発見。駅からやや遠いという懸念点もあったそうですが、「やりたいんだったら、やってみなよ。ダメだったらその時やめればいいんだから」という旦那様の言葉で、お店を始める決意をしたといいます。

  • かわいらしいお店。壁紙は夜な夜な旦那様と貼ったという苦労のエピソードも

自信を持てることで勝負する

こうして始まった奈律代さんのお店ですが、最初はプリン屋さんではなくカフェとしてオープンし、ランチのデザートとしてプリンを提供していたそうです。ただ、駅から遠いこともあって来店客はまばら。そんな状況に悩んでいた奈律代さんを救ったのがご友人の言葉と旦那様の後押しだったといいます。

「友人が“なっちゃん(奈律代さん)のプリンはめちゃくちゃおいしいんだから、プリンだけでもいいんじゃない?”と言ってくれたんです。でもプリンだけで本当にやっていけるか不安で…。旦那に相談したら、“まずはお客さんのことは気にせずに、自分のやりたいようにやってみなよ”って。それで、急に心が軽くなったんですよね」と奈律代さん。

それからはプリンだけに集中できるようになり、より満足してもらえるものができあがっていったといいます。お客さんにも「おいしいので食べてみてくださいね! 」と自信を持ってお話できるようになったそうです。

  • 営業日以外もプリンの仕込みで大忙しな奈律代さん

幸せを感じるプリン

プリン専門店として再始動した「プリン王子M&K」。多くの人を虜にするそのプリンとはどのようなものなのしょうか。

筆者がいただいたのは「大きなサイズのプリンとクリームソーダのセット」。カラメルソースが滴る一般的なものの倍以上の大きさはあるプリンに心が躍ります。そして、昔ながらの懐かしいクリームソーダも添えられ、写真を撮らずにはいられないかわいらしさです。

ドキドキしながらプリンを一口。程よい硬さとなめらかな舌触りを感じた後に、口いっぱいに濃厚な味わいが広がります。カラメルソースの香ばしさが絶妙なバランスで全体をまとめあげ、子どもはもちろん大人も大満足な一品となっています。大きなサイズでも飽きることなく、すっきりとしたクリームソーダとともに最後まで幸せな気分を味わうことができました。

  • 状態を見ながら火加減を微調整して作られるプリン。経験で身に付けた感覚が頼りになるそう

  • 昔ながらのクリームソーダ。大人には懐かしく、若い世代にはレトロで新鮮と人気

SNSでの広がりの理由はみんなの“夢”

店前に行列ができるほどに人気となったプリン王子M&Kですが、そのきっかけはお客さんによるInstagramの投稿だったようです。

「ある日から、Instagramを見てきましたというお客さんが急に増えて。どうやら、お店のことを投稿してくれたお客さんが多くのフォロワーさんを持つ方だったようなんです。SNSってこんなに影響があるものなんだと驚きました」と奈律代さん。

そこから、お客さんによって「プリン王子M&K」は、SNS上で拡散されていきます。数あるお店の中で、なぜ多くの方に投稿され、そして実際の来店につながったのでしょうか。

気になった奈律代さんは、度々足を運んでくれているインスタグラマーのお客さんに聞いてみたそうです。すると、「ここのプリンは、みんなが思い描くプリンそのものであり、それがいい」との答えが返ってきたのだとか。円錐台の形、てっぺんから流れ出ているカラメルソース、お皿にひっくり返されて提供方法…確かに多くの方が「プリン」と聞いて思い描く姿です。

また投稿のコメントを見ていると「レトロでかわいい」というワードが目立ちます。昔ながらのクリームソーダとプリンが、近年のレトロブームにはまったようです。さらに、「大きなサイズが幸せ」、「贅沢」といった内容のものが複数あります。外で食べるプリンは“お出かけした時のちょっとした贅沢”、大きなプリンは“お腹いっぱいプリンを食べたいという夢”…。プリンには多くの人の子どもの頃の思い出や夢が詰まっていて、それがうまく表現されているのが“バズった”理由なのかもしれません。

そしてプリン王子M&Kの投稿で特徴的なのが、その味わいに関する感動のコメントが具体的な表現とともに記載されていること。実際に“食べたい”という欲求を駆り立て、お店へと向かわせているようです。やはり、こだわり抜いたプリンの味こそが人々を引きつけているのです。

  • SNSでも話題の「大きなサイズのプリンとクリームソーダのセット」

大切な誰かと分かち合いたいと思えるものを

SNS上での盛り上がりに対して、「何も意識せずにやっていたので、こんなことになって驚いています」と奈律代さん。ただ、大事にしていることは、来店してくれたお客さんに喜んでもらうことだといいます。

「“あの人にも食べさせたい”って思ってもらえるように、というのは私の中でのテーマです。おいしいものを食べたら大切な人にも食べてほしいって思うじゃないですか。それってすごく幸せなことだなって」と奈律代さん。

実際、お土産用にプリンを購入していくお客さんや、1人で来店された方が再訪時には奥さんやお友達を連れてきてくれることも多いのだとか。おいしいプリンと楽しい時間で、訪れた人に喜んでほしいという奈律代さんの想いはしっかりと伝わっています。

  • ほぼ毎回完売となるテイクアウトのプリン

循環するやさしい気持ち

ここまでやってこられたのは、家族や友人、そして地域の方々など周囲の支えがあったからと奈律代さんはいいます。

「迷いが生じた時、自分の本当の想いに気付かせてくれるのが友人なんです。旦那は多くは語らないけど、“うまくいかなかったらその時に考えよう”って心を軽くして前に進む勇気をくれる。息子と娘は、あんまり関心を持っていないようにみせつつ、さりげなくサポートしてくれているかな(笑)。娘はお母さんみたいにお店やりたいなって言ってくれているので、ちょっと嬉しいですね」

奈律代さんの周囲には、いつもやさしい気持ちが溢れています。それは奈律代さんの明るく、生き生きとした姿が周囲を元気づけているからなのではないでしょうか。

次の夢は、ワンちゃんと一緒にくつろげるテラス付きのカフェをオープンすることなのだそう。その時の看板メニューを尋ねると、「プリンかな、私にはプリンしかないから。でもそれは、その時次第ということで(笑)」と奈律代さん。

常に自分の感覚と周囲の声を柔軟に織り交ぜ、楽しいものを生み出す奈律代さん。きっとまた周囲をワクワクさせてくれることでしょう。

  • 家族の存在が奈律代さんの頑張る力

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