日本の良き文化“ 糀(こうじ)”をもっと楽しくカジュアルに~奥鎌倉の竹林に佇む糀屋さん「sawvi」
浄妙寺や報国寺といった古刹があり、穏やかな時間の流れる鎌倉市浄明寺。市内を流れる滑川の水音を聞きながら、泉水橋から続く細い路地を歩いていくと竹林の麓に1軒のかわいらしいお店が見えてきました。
店先には「sawvi」と書かれた小さな看板があります。なんだか物語が始まりそう、そんなワクワクを胸にお店の扉を開くと、そこには木の温もりを感じるテーブルとイス、壁側にはミニマムで洗練された洋服が並んでいます。
カフェでしょうか、洋服屋さんでしょうか? 聞くと、こちらは糀(こうじ)をコンセプトに、カフェ、アパレル、そしてワークショップの開催など、衣食住の提案を行っているお店なのだとか。なぜ“糀”なのか、そしてどんな提案が行われているのか、店長の寺坂寛志さんにお話をうかがいました。
細い路地を抜けると、竹林を背にかわいらしいお店が現れる
自然と調和するインテリアが配されたカフェスペース。壁側にはアパレルも並ぶ
糀にまつわる衣食住の提案
福井県越前市で米、そして糀をつくる農家で育った寺坂さん。古くから日本に伝わる糀が、時代の流れとともに生活の中から消えつつあることに危機感を持っていたといいます。
「糀にはブドウ糖やアミノ酸など体に良い成分が多く含まれています。だからこそ糀という文化は伝えられてきたと思うんです。こうした文化が途絶えぬよう、無理なくカジュアルに生活に取り入れてほしい、そんな想いからこのお店を始めたんです」と寺坂さん。
こうした想いから、「sawvi」では糀にあまり触れたことのない若い世代の方も気軽に手にとっていただけるよう、現代の感覚に合った提案で糀の魅力を伝えています。
福井県越前市の自家農園。米づくりから始まり、甘糀や味噌、そして菓子まですべての製造を一貫して行っている
糀を美味しく“食べる”体験を提供
カフェでは、甘糀ラテや甘糀のジンジャーミルクなど甘糀を使ったドリンク、苺の甘糀レアチーズケーキや米粉を使ったロールケーキなどのスイーツ、そして糀とスパイスの米粉地鶏唐揚定食や甘糀豚の生姜焼き定食(季節限定)など糀を使ったランチを提供しています。カフェで使っている糀はご両親とご兄弟が営む自家農園の農薬・化学肥料不使用のお米からつくられたもの。
「たまたま入って食べたメニューが美味しかった。そこに糀が使われているのを知って興味を持った。カフェはそんな入口になればいいなと思っています」と寺坂さん。
筆者がランチにいただいたのは、大豆コロッケ定食。「sawvi」では、糀を使ってお店オリジナルの味噌を仕込んでいるのですが、このコロッケはその際の材料でもある蒸し大豆を材料に使用。ひき肉と蒸し大豆に、塩甘糀を調味料として加えることで、そのコクやうま味が引き立つのです。また鎌倉野菜を中心としたピクルスにも塩甘糀が使われています。お店オリジナルの倍糀味噌を使用したお味噌汁も、塩味、うま味、甘味などが絶妙なバランスで、体にすっと入ってくる優しい味わいでした。
食後のデザートには米粉のロールケーキと甘糀ラテをいただきました。ふわふわしっとりの米粉のロールケーキに、上質な苦みの中にほんのりとした甘糀の甘さが広がるラテがぴったりと合います。
伝統的な和食だけでなく、さまざまなメニューを通して、糀をどのように使えばいいのか、たくさんの発見をさせてくれます。
大豆コロッケ定食。驚くほどクリーミーなコロッケは米油で揚げることで、衣がさっくりと軽い食感に
米粉のロールケーキなど、スイーツは自家農園で働きながらパティシエとしても活動する弟さんによるもの
糀のある生活を提案するワークショップ
また、「sawvi」では、“甘糀づくり”や“味噌づくり”などのワークショップを開催し、糀のある生活を提案しています。
「カフェで甘糀や味噌を味わったお客様が、ご自宅でも作ってみたいと思ってくださるかもしれません。そんな方々に向けてワークショップを開催しています。これが住の提案ですね」と寺坂さん。
甘糀も味噌もつくるのが難しいのではと思っていたのですが、とっても簡単なのだそう。ワークショップに参加したお客様の中には、継続して自宅で作っている方も多いようで、「おいしくできました!」なんて報告しにお店へ遊びにきてくれた時はとても嬉しいのだとか。
こうしたワークショップを通して、「sawvi」を人々の食と健康を支える“町の糀屋”にしていきたいと寺坂さんは話します。
「いつも買いに行く糀屋さんがあって、そこで食についてのお話をする。もともと糀屋は、その町の暮らしに根差した場所だったんです。販売して終わりではなく、糀の使い方を聞きに来てもらえる、このお店もそんな場所にしていきたいですね」
毎週木曜・金曜に開催しているワークショップ。ホームページや電話で予約可能
店舗では、甘糀や倍糀味噌などの販売も行っている
農家だからこそ機能的でおしゃれな洋服を
さらに「sawvi」では、オリジナルのジーンズやTシャツ、ワンピース、デザイナーとコラボしたアイテムなどを販売しています。そこに共通しているのは丈夫で動きやすい服、そして長く使うことのできる服であること。ここには、農家など第一次産業に対する寺坂さんの想いがありました。
「農作業の時に着る作業着はどうしても野暮ったいものが多くて、私自身、特に若い頃はその姿を誰にも見られたくなかったんです。でも本来は、仕事をしている自分に誇りを持てる服であるべきだと思うんです」
そんな想いから、アパレルの生産・販売にも取り組むことに。もともとファッションが好きだったという寺坂さん。自身の経験から、作業しやすくそしてカッコいいデザインを描き、それを伝手のあった腕利きの職人さんが形にしていきます。
「丈夫でファッション性のあるものであれば、作業をする方だけでなく、すべての人に日常の中でも着ていただけます。その服のストーリーを知ってもらうことで、暮らしを支える人々のことを考えるきっかけになってくれたらという想いもあるんですよ」と寺坂さん。
そして、これらの服には、農家の方々の暮らしへの考えが詰まっていました。
「農家の方々は、モノを上手に使い回す知恵を持っているんですよね。モノを捨てることは、生産者の想いを捨てるということにもなるので大事に使うんです。だから、僕らの服もずっと長く着ていけるモノであるようにつくっています」
作業で汚れても何度でも洗えるように、丈夫な素材を使用。長く着用することで、ほつれたり、擦れたりしてしまっても、店舗に持ってくればリペアをしてくれるのだとか。さらに、色に飽きてしまった場合には、染め直しのサービスまで提供しているのです。
ジーンズはsawviの第一弾オリジナルアイテム。色落ちや生地馴染みなど、長く着るほどに愛着が沸いてくる
帆布などの伝統の生地、ジーンズなどで培われてきた縫製技術を融合させた岡山発のブランド「SEUVAS」によるタッサー生地を使ったワンピース。染め直すことで全く違う印象に
皆でつくりあげる、農家マインド
こうして糀をコンセプトに衣食住と幅広い提案をする「sawvi」。一人の力では決してできないことも、横のつながりがあったからこそ形にすることができたと寺坂さんは話します。
「例えば無農薬でお米を作るとして、自分のところの田んぼだけではできないんです。川は流れ、地はつながっていますから、地域全体で協力していかなければならない。そうして支え合う姿を見てきたので、コミュニティで目標を達成するということが自然と身についていたのかもしれません」
新鮮な食材を提供してくれる農家さん、服作りをともに行う職人さんやデザイナーさん、多くの方々との出会いがあり、皆が同じ想いを持ち協力することで「sawvi」は今の形となっていったのです。
人との出会いを何よりも大切にしているという寺坂さん。物腰柔らかでありながら熱い想いを持つ寺坂さんの周りには多くの人が集う
生産者とのつながりを感じられる暮らしへ
今後は農業体験なども提供していきたいと寺坂さん。
「実際に作業を体験し、農家の方と触れ合う中で感じてもらえることは多くあると思います。そんな機会を提供していけたらいいなと考えています」
体験時には「sawvi」の服を着て作業することで、若い世代の方も楽しみながら取り組むことができ、抱いている農業へのイメージを変えるきっかけとなるかもしれません。
糀という文化、そして農業などの第一産業の在り方に対して熱い想いを持つ寺坂さんですが、その提案はとっても軽やか。“暮らしに取り入れることができたら素敵だな”と思えるような形で見せてくれるのです。
竹林を眺めるお店で穏やかな時間を楽しみながら、糀の魅力に触れることのできる「sawvi」。今度のお休みに訪ねてみてはいかがでしょうか。
sawvi
神奈川県鎌倉市浄明寺5丁目6番1号
[営業時間]
10:00~18:00
[定休日]
水曜
[連絡先]
Tel:0467-37-5188
[ウェブサイト]
HP:https://sawvi.jp/
Instagram:@sawvi_shop
Facebook:https://www.facebook.com/sawvishop/
ライター情報
Tomoyuki Yamaga
海のないところに生まれ、海を求めて湘南へ移住。出版社で雑誌編集者として働いた後、フリーランスとして活動をスタート。趣味は、旅行、街歩き、グルメ、ファッション、ダンス、サーフィンなど。暮らしの中のちょっとした驚きやワクワクを届けたい、そんな思いで活動しています。
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