沖縄名産の海ぶどうが藤沢の新名物に!?「Shonan Green Cavier」
藤沢といえば海。しらすやアジ、サザエなど海の幸にも恵まれた場所として知られています。しかし新たな名物が登場したのをご存じでしょうか? それはなんと「海ぶどう」! そう、沖縄の名産として有名な海ぶどうが、ここ藤沢で獲れるようになったのです。
しかし驚くのはこれだけではありません。海ぶどうの養殖・生産は海で行われるのですが、藤沢産の海ぶどうは驚くことに「陸上養殖」。沖縄圏以外で初めての事例であり、今後の農水産業ひいては地方活性に一石を投じるであろう、画期的な事業なのです。
新たなビジネスとして、農業をより活性化させたい
この活動を始めたのはShonan Green Cavierを率いる黒澤浩一さん。以前はシェフとしてイタリアンをはじめさまざまなレストランで腕を奮い、多くの店を立ち上げて成功させた経歴の持ち主。現在は藤沢市にて認可外保育園の園長も務めるなど、精力的に活動を行っています。そんな黒澤さんがなぜ海ぶどうの養殖を手掛けることになったのでしょうか?
「藤沢市界隈は、高齢化などで農業人口が減少し、耕作放棄地となっている畑やハウス、田んぼも増え、農家さんの収入も減少しています。こうしたなか、陸上養殖の技術を使えば年間を通して安定的な収入が十分に見込めることが分かり、この取り組みが成功すれば、若い方たちに新たなビジネスとして農業に挑戦してもらえるのではないか。そんな期待も込めています」と黒澤さん。
そんな黒澤さんに積極的に協力してくれたのが、藤沢で19代続く農家である井上さん。樹齢100年を超える貴重な梨の木をはじめ、さまざまな果樹を育てるだけでなく、農業実習性を受け入れるなど、藤沢の農業の活性化に積極的な農家です。井上さんは黒澤さんの意志に共鳴し、自宅で使われなくなった巨大なプールを貸与してくれたのです。
井上農園の樹齢約100年の梨の木
早速、農園を分け入った中にあるプールにご案内いただくと、大きなプールに並べられた5つの水槽で海ぶどうが養殖されています。「海ぶどう発祥の地である沖縄の宮古島から苗を買い付け、その収穫するまで育てるのに約1か月かかります。この夏でようやく養殖開始から1年。養殖のノウハウもつかめ、ようやく安定して収穫できるようになりました」と黒澤さん。それまでに多くの試行錯誤を繰り返したといいます。
「去年の冬、気温の影響を受けて水温も下がったことから水槽の海ぶどうが全滅したこともあります。水温は微妙な調節が不可欠で、高くても低くてもダメ。0.1度単位で管理しなければなりません」
使わなくなったプールに5台の水槽を設置
水槽にはこうした海ぶどうがぎっしり
試行錯誤を繰り返し、ようやくたどり着いた最適解
早速水槽を見せていただくと、まだ2週間程度しか経っていないものは房も粒も小さく、3週間以上のものは大分、大きな実をつけています。その隣には最も大きく成長している水槽もありましたが、こちらも3週間ほどだそう。この違いは一体、何なのでしょうか?
「こちらの水槽には機械を使って酸素の分子を極力小さくしたナノバブルという酸素に加え、二酸化炭素(CO2)を入れています」と黒澤さん。酸素の分子を細かくすることで、酸素の吸収率を高まり、さらに成長に必要なCO2を増やしてあげることで、成長速度を促進するそう。このように自ら研究と試行錯誤を繰り返すことで、ようやく養殖技術を確立したのです。
2週間程度のものはまだまだ小さく
ナノバブル+CO2を加えると3週間でこの大きさに
「海ぶどうで、がんにかかりにくい体づくりを」がきっかけ
「食べてみる?」と黒澤さんにいただいた海ぶどうを一口いただくと、噛むごとにプチっとした心地よい食感、さらに芽付きならではのしゃっきりとした歯ごたえは、メカブを食べた時のようで、食べ応えが十分。みずみずしい美味しさが口中に広がります。しかし、そもそもなぜ、養殖をはじめるにあたり海ぶどうを選んだのでしょうか。
「約10年前にがんになり抗がん剤治療を受けていたのですが、その中にはフコイダンという成分が入っていることを知りました。フコイダンは海藻に多く含まれているのですが、中でも海ぶどうにより多く含まれていることを知り、がんにかかりにくい体質改善に役立つと思ったのです」と黒澤さんは静かに語ります。
熱心かつ丁寧に案内してくれる黒澤さん
数々の名店が湘南産海ぶどうを絶賛!
こうした苦労と努力の経験がようやく実を結び、一般的に販売されるようになった海ぶどうですが、この食材に注目しているのはいわゆる沖縄料理屋さんだけでなく、一流とされるシェフたち。藤沢・鵠沼海岸にあるフレンチの名店「名古屋」をはじめ、片瀬海岸の「IL CHANTHI BEACHE」、鎌倉「古我邸」など、だれもが知る名店が黒澤さんの海ぶどうを、こぞって料理に加えているのです。
単にポン酢につけて食べるのではなく、海鮮サラダの主役として、またはアクセントとしてあしらうなど、今までにない素材使いをされることも多いようで、シェフからも「料理の幅が広がった」と喜ばれているそうです。
江の島「イルキャンティカフェ」の「海ぶどうと白身魚のお料理」
鎌倉「古我邸」の海ぶどうの前菜
温泉熱利用で、全国にこのモデルが広がれば…
しかし黒澤さんの夢はこれだけに留まりません。「水温と塩分濃度の管理さえすれば、陸上養殖が可能でそのノウハウは完成しました。次は温泉の熱を使うことで、より低コストで効率的に水槽の水温管理ができるのではないかと考え、湯河原での養殖を考えています。そしてそれが成功すれば、日本全国の温泉地に展開できるのではないでしょうか」と黒澤さん。いずれは、地場産業に乏しい地方の活性化の一つとして役立つのではないかと考えているそう。
さらに「海ぶどうの養殖は閉じられたハウスという空間のため、温度管理も万全。さらに、作業も難しくなく、水槽の高さを調節すれば車椅子の方でも安心して作業ができます。そうした障碍を持つ方に新たな雇用を生み出すことにもなるのではないかと考えています」(黒澤さん)
「一刻も早く、この技術を確立して次の世代に受け継ぎ、全国に広めていきたい」という黒澤さんの挑戦。海ぶどうの一粒一粒は、その確たる想いと情熱の結晶のようなもの。この黒澤さんの海ぶどうは、先にご紹介したレストラン以外でも長後の「農村カフェ ハレルヤ」や小田急湘南GATE3階にある「海ぶね」でも食すことができます。ぜひ一度、湘南産の海ぶどうを食べて、地産地消ならではの新鮮極まりない美味しさと、新たな可能性の広がりを実感してみてください。
ライター情報
ユゲヒロシ
鵠沼海岸生まれ、鵠沼海岸育ち。バックパッカーとして世界を旅した後、広告制作会社に。2003年よりフリーランスのライター&ディレクターに。趣味はキャンプ、ロードバイクなど。B・C級グルメ、お酒が大好き。
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