パンの販売を通じて飲食店業界の活性化、アフターコロナ以降の新しいビジネス展開を見据える〜「ロワール光月堂」

コロナ感染拡大防止による外出自粛の影響から、さまざまな飲食店がテイクアウトメニューなどを販売して何とか苦境を乗り切っています。ただ、それでも売り上げは従来より70%減というのも珍しくなく、出口のないトンネルをひたすら模索しています。

そうした中、自らも給食用のパンの販売が中止となり苦しい立場であるにもかかわらず、そうした飲食店に救いの手を差し伸べたお店があります。それは「ロワール光月堂」。普段は市内の小中学校に給食用のパンを提供している長後製パンが経営するお店です。

工場を稼働するためにコッペパンの生産を開始したところ…

実はこのロワール光月堂は、先日ご紹介した「味の店 古久家」の総菜パンにも登場したお店です。長後製パンは湘南エリアでも指折りの大きな工場を持っており、市内の小中学校向けに給食用のパンも提供していましたが、休校に伴い給食は中止に。とはいえ、病院用のパンの製造なども手掛けていることから、生産ラインを止めるわけにもいかず、生産ラインの稼働と雇用創出も兼ねて、コッペパンの製造販売を始めることにしました。

そこで、ロワール光月堂の齋藤孝曉さんが、SNSにて「コッペパンを格安で販売します」と書き込んだところたちまち2万リツイートの反応が。その中には、「味の店 古久家」さんからの返事もあり、総菜パンの発売へとつながりました。

  • お店の片隅に積み上げられた、パンのセット

自分も困っているが、もっと困っている飲食店に何かできないか…

齋藤さんは、さらにもう一歩考えを深めます、「パン屋以上に、ほかの飲食店はもっともっと苦しいという話を聞く中、なんとか飲食店に手を差し伸べることができないのか…」と。

たどり着いた答えは「同業他社であり本来ライバルとも言えるさまざまなパン屋さんのパンを、何類かまとめて販売する」という斬新なセット。「そのパンのセットを販売する場所を、売り上げに困っている飲食店に提供してもらい、パンの売り上げの一部を場所代として飲食店支援に利用する」という支援の仕組みです。

まず、齋藤さんは「藤沢おたすけパンチーム」を立ち上げ、藤沢市の人気店に声をかけました。その心意気を買った市内のパン屋6店舗(パン工房パナケナケ/善行、ブーランジェリーユイ/藤が丘、ブーランジェリーシュシュ/藤沢、PINY/片瀬、ロワール光月堂/長後)が協力を表明。最大6店舗のパン10個とラスク1袋店舗)からなるパンのセットを、パンの通販サイト「リベイク」で販売することにしました。パンの申し込みと支払いはすべてweb上、後は商品を会場となる飲食店で手渡すだけという、極力手間を省くことができる販売方法です。

  • 人気のパン屋6店舗のパンが10種類+ラスクで2500円

この飲食店支援プランに賛同、パンの受け渡し場所として真っ先に手を上げたのが、藤沢商工会館ミナパーク内にある「レストラン ふじ」。「会合などへの仕出し弁当やケータリングがメインで売り上げが激減するなか、私たちとしても本当にありがたい試みです」と「レストラン ふじ」の足立さん。

続いての販売場所となったのは、イタリアンレストラン「タントタント」。店頭には豊富に並ぶテイクアウトメニューを購入されるお客さんに交じって、パンの引き渡しに訪れるお客さんもいらっしゃいます。すると、パンを引き取るだけでなく、美味しそうな数々のメニューに惹かれて、テイクアウトメニューを買っていかれる方も見られます。「パンを目的に来店された方が、私どものテイクアウトメニューを買っていかれる。また逆にテイクアウトを買いに来た人が、パンのことを知り、サイトに登録してパンを注文する。互いにいい影響を与え合っていると思います」とタントタントの鈴木店長は語ります。

このように、この支援システムは、パンを手渡すお店が期間によって変わっていくことが面白いところ。1店だけに限定せず場所を変えて販売することで、さまざまなお店を支援できるだけでなく、広範囲のエリアの方にお店を認識してもらえるというメリットもあるのです。

  • 「レストラン ふじ」の足立さん

  • 「レストラン ふじ」の名物メニュー『トマトと豚のふじさわカレー』

  • パンの手渡し場所となったイタリアン「タントタント」

  • 「タントタント」にはテイクアウトメニューがずらり

コロナ収束後を見据えたビジネス展開を視野に

けれども、各パン屋さんを巡ってパンを集め、セットするのは齋藤さんただ一人。とても労力がかかるものです。

「今回のこの非常事態だからこそ、“支援”という名目のもと可能になりましたが、これはビジネスモデルとして今後も通用すると考えています。今のスタイルでは、パン屋さんの儲けやお店の利益も微々たるものですが、さらにコストや手間を見直し、ブラッシュアップすることで、コロナ収束後でも1つの立派なビジネスとして成立できると考えています」(齋藤さん)。

  • 一人でパンを集配しパンの袋詰めを行う、大変な作業

  • リストを確認して、パンを店頭で手渡す齋藤さん

「こうした取り組みは、大きな自社工場を持ち、比較的体力がある私たちだからこそできることだと思っています。さらに辻堂海浜公園に湘南エリアのパン屋さんが集まるイベント『湘南パン祭り』の実行副委員長を務めたことがあり、そこで培ったパン屋同士のつながりもあります。そうしたつながりで得た財産をフルに活用して、パン業界だけでなく藤沢の飲食店業界の活性化、そしてアフターコロナ以降の新しいビジネス展開を見据えて行きたいと考えています」。

湘南の飲食業界の新たな光に…

自分たちが苦しい状況であるにも関わらず、さらに大きな視野で飲食店への支援に目を向け、将来へのビジョンを持って新たな行動を起こした齋藤さん。とても20代とは思えない思慮の深さと慧眼を持ち、20代ならではの卓越した発想力と行動力を発揮する。こうした人物が湘南にいること、そして先頭に立って飲食業界を牽引していくことに、誇らしさと頼もしさを覚えると同時に、アフターコロナへの明るい希望が少し見えた気がしました。

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