鎌倉の稲村ヶ崎で精進料理を広めている藤井まりさん。鎌倉の自然の中から世界を見つめる
江ノ電の稲村ヶ崎駅から歩いて15分から20分。小高い林の中に藤井まりさんのご自宅はあります。
藤井さんは精進料理研究家。精進料理とは仏教のお寺で僧侶たちが口にしている食事です。無駄な殺生を禁じるというルールの下で作られる料理には独特の味わいがあり、現代ではその自然に沿った健康的な風味に多くの人が引き寄せられているとか。美しい自然の中で精進料理を指導する藤井まりさんを訪問しました。
精進料理を伝える
「主人が亡くなってもう10年以上になります。私は主人から精進料理を学びました」藤井まりさんは言います。
まりさんのご主人は僧侶の故・藤井宗哲さん。臨済宗建長寺で修行し、典座(てんぞ。禅寺の食事を作る仕事)として他の僧侶たちの食事を用意してきた人でした。そんなご主人は精進料理の専門家として数々の本を出版する一方で、自宅である“不識庵”を開放して精進料理塾「禅味会」を開催し、多くの人を招きました。ご主人亡きあと、まりさんが禅味会を引き継ぎ、精進料理の精髄を伝えています。
藤井まりさん。自宅で精進料理を教えている
日本の食事の原点を感じさせる料理
そもそも精進料理とはどういう料理でしょう?
まりさんは説明します。「精進料理とは原則的に“追いかけて逃げるもの(動物全般)は使わない”“匂いの強い野菜である五葷(ごくん。ネギ・ニラ・ニンニク・タマネギ・ラッキョウ)は使わない”のがルールです。基本的に菜食で淡い味わいの、素材の味を十分に生かした料理と言えます」食材は野菜や穀類ですが、お粥や豆腐、麦など日本の食事の原点を感じさせるのが精進料理であるとのこと。実にヘルシーで、現代ではダイエットに最適な料理法とういうことが言えるかもしれません。
精進料理。素材の味を生かした料理法
『身土不二』『一物全体』――エコな料理に注目が集まる
なんとも素朴で、健康的な味わいのある精進料理。そもそも日本の食事には古くから重要な考え方があったといいます。
「精進料理にも当てはまる、あるべき食事を表わすいくつかのキーワードがあります。
その一つが『身土不二』。人間とその住む土地は一体のものという意味で、人は自分の住んでいる土地のものを食べれば健康になれるということです。
もう一つのキーワードが『一物全体』。ダイコンなら皮も葉っぱも全部食べなさいと言われています。野菜を一つの命とみれば、無駄な殺生をしないということにつながりますし、またゴミも少なくなります。日本の料理はエコクッキングです」
美しい自然の中で人々をもてなしている
まりさんは稲村ヶ崎に住んで36年になるそうです。出身は北海道。東京の大学を出てご主人と出会い、結婚してここ鎌倉に移り住んだとのこと。「ここはフキノトウも採れますし、海に出ればワカメも拾えます。東京から来られた方などは『ここにくるとホッとする』と言われます。こういう環境だから長く続けてこられたのかなと思います」
まりさんの指導する精進料理は多くの人々から好評を得ているとか。「年配の方は『食べても胃にたれないのがいい。お昼に食べてもスッキリ消化するから夕方にはまたお腹が空いてくるし、それが心地よい』と言われます。
稲村ヶ崎の自然がすぐそばにある
自宅の周囲にも自然がいっぱい
日本の食事は世界の注目を集める
フランスの禅グループ、イギリスの禅グループなどに招かれていくこともありますが、彼らは精進料理の背後に仏教の考え方があると気づいていますね。それで海外でもこの料理は興味を持たれています」
現在は日本中のさまざまなカルチャー教室で指導するのはもとより、イタリアやフランス、ドイツなど外国にもわたって精進料理を指導しているというまりさん。日本の食事は世界的な注目を集めているようです。
精進料理は世界から注目されている
社会全体の高齢化が進み、多くの人が健康に気をつけている現代。こうした中で野菜を中心とした精進料理に、人々の関心が集まるのも頷けます。稲村ヶ崎の美しい自然の中で、まりさんは今日も多くの人々を精進料理でもてなしています。
多くの人に慕われている藤井まりさん
湘南で暮らす人々
都心から電車で1時間と、遠いようで実は近くにある海辺の街。豊かな自然に囲まれて過ごす人々の表情もまた、おなじように豊かです。
本コラム『湘南で暮らす人々』では、この地で生活を営む人々にフォーカス。「やっぱりこの街が好きだ」というみなさん、そして「いつかはここで……」と憧れを持つみなさんと一緒に、多彩なライフスタイルを覗いていきたいと思います。
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鎌倉不識庵
[ウェブサイト]
http://kamakurafushikian.com
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