人々を温かく包み込む場所でありたい。“想い”とともに変化を続ける「福日和カフェ」

「最近忙しくて、なんだか体も心も疲れちゃったな」――ふとそう思った人たちを、温かく包んでくれるような空間があります。鎌倉・坂ノ下にある「福日和カフェ」です。

長谷駅を降り、海へと向かう小道に立つ古民家。小さな暖簾と「福日和カフェ」と書かれた郵便受けがお店の目印です。暖簾をくぐると、そこには木漏れ日が差し込み、優しい風が吹き抜ける、可愛らしい空間が広がっています。

福日和カフェは、美味しいチャイと自家製スイーツとともに、「また一息つきたくなったらここに来よう」そんな気分にさせてくれる空間を提供しています。今回は、オーナーの星野さんに、なぜこのようなお店をつくったのか、その想いを伺ってきました。

真っ白なキャンバスに描くようにつくり始めたカフェ

もともと坂ノ下に馴染みがあった星野さんは、散歩中にこの物件に出会ったといいます。その場所が気に入った星野さんは、親御さんが経営するレストランバーダイニングを手伝っていた経験もあることから、自身でカフェを経営してみることにしたのだとか。

お店づくりにあたって、あえて最初にコンセプトは決めなかったという星野さん。

「私は絵を描くのが好きなんです。でも、模写は苦手で…真っ白なキャンバスにその時描きたいものを描いていくようなイメージでお店づくりをしていきました」

カフェをはじめたばかりの頃には、「個性がないね」と言われこともあったそうです。しかし、それから5年、今では福日和カフェ色で溢れる店内に「落ち着く」「チャイが美味しい」「かわいい」と、地元だけでなく遠い場所からも多くのお客さんがやってきているようです。

  • 優しい風と木漏れ日が入り込む店内

福日和カフェの色

福日和カフェの色、それは星野さんの想いそのもの。

「何かしたい“意思”というより、ここにきてくれる人たちを癒したいという“想い”があって、気づけばそれがこのような形になっていました」と星野さん。

花をモチーフにした模様が所々に入った店内はかわいらしくもありつつ、落ち着いた色合いとすることで男性も入りやすい空間に。日々を頑張っている人たちが疲れた時に心身を癒しに来る場所でありたい、誰もがいつでも入りやすい場所でありたい。そんな星野さんの想いから、この空間が作り出されています。

  • 誰にとっても居心地のいい場所にしたいという思いが溢れる店内

癒しを提供するチャイ

来てくれた方を癒す場所でありたいとの想いから生まれたメニューが、福日和カフェの代名詞である「チャイ」です。スパイスの香りが心を落ち着け、そのまろやかな味わいが優しい気持ちにしてくれます。

種類豊富なチャイは、どれも星野さんの完全独学によって生まれたものなのだとか。もともとチャイが好きで、インドから来た留学生に教えてもらったレシピを軸に作り始め、その後はスリランカなどに足を運びアイデアを得てはメニューのレパートリーに反映させているそうです。

  • カボチャそのものの甘さが優しく広がる「かぼちゃい」。メニューには一つ一つのチャイの説明が丁寧に書かれている

居心地の良さを生むお店づくり

星野さんの想いは、使用する食器やスタッフの方のエプロンなどにも表れています。

「スイーツを提供するお皿は、その日のお客様に合わせて出しているんです。自分用に選んでもらえるって、なんだか嬉しいじゃないですか」と星野さん。

ここにも、お客さんを癒すための小さな気遣いがあったのです。

また、スタッフの方の服装もお店の雰囲気の一部。そこで、お店の温かな空気感につながるよう、オリジナルのエプロンをつくったのだとか。エプロンは大きな布でできていて、服を覆うことができるのもポイントなのだそう。好きな布を選び、リボンをつけるなどのアレンジをすることで、スタッフの方も楽しみながらお店づくりに参加できる工夫がなされています。

  • お店の雰囲気を演出するオリジナルのエプロン

できあがった形をさらに楽しいものに

コツコツとお店を作り上げてきた星野さん。ある程度形が固まってきた中で、より良いお店にしていくためには、新たな挑戦が必要だと考えたそうです。

そして、2021年の10月から経営形態を大きく変更。それまで行っていたランチを終了し、カフェメニューの提供とともに、新たにハンドメイド雑貨の販売を開始します。雑貨は、星野さんのアイデアをもとに、さまざまな作家さんが形にしてくといいます。

「お客様には、買って楽しんでもらう。作家さんには、カフェで販売して楽しんでもらう。私自身も好きなことを形にして楽しむ。そうして、楽しいことを共有できる場にしたいと考えたんです」と星野さん。

新しく制作を始めているハンドメイド雑貨を少し覗かせていただいたところ、シーグラスでできた雑貨から、森をイメージしたような雑貨まで、いろいろなものが作られていました。カフェにまた1つ魅力的な色が加わっていきます。

  • 甘酸っぱい檸檬の酸味が広がる「さわやか檸檬パイ」(写真上)や、ふんわりと甘さと香ばしさが広がる「かぼちゃの米粉シフォンケーキ」(写真右)などのスイーツで癒しのひとときを

「小さな気遣い」の「大きな力」

星野さんが鎌倉でカフェを営み学んだことは、「小さな気遣いが何よりも大切」ということだといいます。

「この辺りは、本当に温かくてつながりを大事する方々ばかりです。誠実にコツコツと頑張れば、皆さん評価してくれますし、味方してくれます。小さなことであっても相手を想って行う1つ1つが、すごく大事だと感じています」と星野さん。

心地良い距離感の接客、お客さんに楽しんでほしいと丁寧に書かれたメニューブック…。小さな気遣いは、店内のあちこちで見ることができます。

もう1つ、鎌倉で仕事をする中で学んだことが、「自分がどうありたいか」という気持ちを大切にするということだといいます。

「鎌倉っていい意味で変わった人が多くて、皆さん人生楽しんでいらっしゃるんですよね(笑)。一緒にいることで、私自身も価値観が変わってきたように思います」と星野さん。

完成しないキャンバス「福日和カフェ」

星野さんの店づくりに完成はありません。

「鳥が巣を作るように、私も福日和カフェを巣にして、外の世界を飛び回って新しいものを持ち帰れたらと思っています。そして、持ち帰ったものと今あるものをかけ合わせることで、この空間を進化させつつ、癒しの空間を作っていきたいですね」と星野さん。

これからも「人を癒したいという想い」「こだわりを持ってものを作る」ことを大切に、星野さんにしか描けない新しい世界を作り続けていくことでしょう。

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