あの路地を曲がれば。〜雑誌編集者の鵠沼ライフ〜

利用することで古き良きものを守る「松の杜くげぬま」

祖父母から受け継いだ家を、壊さずになんとか残したい。その想い一心で、鵠沼松が岡に91年佇む住宅と庭の緑を守る活動を進めています。【片付け】【修繕】【活用】を3本柱に、多くの方々のご協力を得ながら少しずつ。

2018年に国登録有形文化財となったものの、居住しているため「非公開」としてきました。けれども、建物存続のためには、地域の方にその存在を知っていただき、利活用することで修繕費や管理費を捻出しなければ維持は難しいというのが実際のところ。

そのための準備を進め、2019年秋から【活用】が本格始動しました。現在「松の杜(もり)くげぬま」という名前で、様々なイベントをスタートしています。

敷地内には20m級の松が何本もあり、藤沢市の保存樹木に指定されています。130年ほど前の鵠沼別荘地開拓時代、住民たちが砂止めや敷地境界のために植えた黒松は、鵠沼松が岡の景観を象徴する存在。松に囲まれた住宅は、神社を囲う「鎮守の森」のように、建物だけでは成り立たなく、古い邸宅と取り囲む緑が共存して初めてエネルギーのある空間を作り出しているように思います。そんな歴史を語る場を、地域の人々が大切に想ってくれたらと願いを込めて、ネーミングを考えました。

この秋に開催したイベントの様子をご紹介します。

9月29日には湘南エリアで毎年開催されている「湘南邸園文化祭」に、会場として初参加。NPO法人神奈川まちづかい塾主催の「残していこう伝統構法 瓦屋根のお話」というトークイベントの会場に、和室をご利用いただきました。

講師の瓦師・藤井禎夫さんは数々の寺院や歴史的建造物の瓦葺きを手がけてきた瓦職の第一人者。松の杜くげぬまの屋根瓦も昨年の台風で数枚割れてしまい、6月に藤井さんに修復いただきました。今では手に入らない初期型のフランス瓦で、同じものを探すのに大変なご苦労があったそうです。

トークイベントには20名以上のお客様にお越しいただき、瓦職人が減っている現状や瓦屋根修復の事例、藤井さんを囲っての質疑応答、瓦職人の98%は出来ないという瓦割りを実演いただくなど、有意義な時間となりました。休憩時間には、江ノ島の玉屋本店の「瓦せんべい」をご用意しました。

10月には9日間という長めの会期で陶芸展を開催しました。葉山在住の陶芸作家ucacoceramicsによる器を和室に展示。ひとつひとつ手間暇かけて作られた繊細な器は並んでいるだけでも美しく、手前味噌ながら、古民家をも引き立たせてくれる良い企画だなぁと感じました。

器の展示販売だけでなく空間も楽しんでいただけるよう、白菴茶室研究会による茶会や、作家のカップでお出しするコーヒー屋さんを開いた日もありました。「雪山シリーズ」という器に合わせて、私が携わる『Stuben Magazine』も展示販売。完全なオープンイベントは初めてのことだったので、建物を見たくて、と訪れた方も大勢いらっしゃいました。

週末には陶芸ワークショップと金継ぎワークショップを開催。自ら土に触れイメージする器が出来上がってゆく楽しみ、欠けたり割れてしまったお気に入りの器を蘇らせる喜び。参加者の皆さんの真剣な表情が印象的でした。

春からテスト的に始めた月1〜2のヨガ教室は、おかげさまで人気イベントとなってきました。天気が良ければ庭で、雨なら室内で、毎回定員をちょっとオーバーして、ご近所の方から遠方の方までご参加いただいています。YOKO先生のヨガはわかりやすくて、初めての方でも安心と好評!

ヨガの後のランチもお楽しみのひとつ。ケータリングだったり、鵠沼海岸のお店から仕入れたり、スタッフ持ち寄りだったり、身体に優しいメニューをみんなで考えてお出ししています。

10月22日にはヨガ教室のあとに、ヘナ&ハーブインストラクター尾形弓子さんによるオーガニックコスメ作りも開催。自然治癒力を最大限に引き出すアーユルヴェーダの自然療法を学びながら、ハーブなど自然素材だけで化粧水や洗顔クリームを作りました。使い心地もとっても良くオススメです!

また、門の前で開催するNa-Harvestさんによる野菜販売会は月1で継続しています。北信州の農家さんが丁寧に育てたお野菜や果物、お米、加工品などなど。片瀬にベースを置くNa-Harvestさんが、毎週、中野市や飯山市の農家さんやハーベストの畑に通い、旬の恵みを届けてくださいます。無農薬野菜が中心で、初めて見るお野菜があったり、びっくりするくらい大きかったり、薄い味付けでもじんわり美味しいのが特徴です。

11〜12月も週末を中心に様々なイベントを企画しています。イベントにおける収益の一部は、建物の修繕費や庭の管理費に活用させていただきます。

古い家を所持し続けるのが難しければ、売却するのが一番手っ取り早い方法でしょう。しかし、土地は更地にしないと売れないというのが一般的。この家を手放すということは、庭に生きる巨木も、何百種類の動植物の命をも奪うということ。緑が減ってアスファルトが増えれば、夏の暑さにも加担し、冷房に頼り、また気温が上がるという悪循環の繰り返し。そんな未来を想像したら、ここは絶対に守らなければならない、と自分の使命のように感じています。

人が出入りすることで風通しが良くなり、人が集まることで新たな風が吹く。地域のコミュニティスペースとして、多くの皆さんにご利用いただければ嬉しい限りです。11月以降のイベントスケジュール、ご予約はこちらへ。

松の杜くげぬま FBファンページ
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松の杜くげぬま 予約サイト
https://reserva.be/matsunomorikugenuma

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