64年前の夏休み。父の絵日記から昔の湘南を知る
夏真っ盛り。猛暑は身体に応えるけれども、いくつになっても“夏”ってなんだかワクワクします。青空に入道雲、蝉の鳴き声、海から聞こえてくる賑やかな声、祭りの太鼓の音、水着で海に向かうご近所さんたち。海の近くということもあり、家で仕事をしていても、どこか心は夏休み気分だったり。小学生と同じくらい、大人も長く休んでしまいたいですね。
先日、祖母の遺品整理をしていたら、父が子供の頃に描いた夏休みの絵日記を1冊発見しました。とにかく物持ちのいい、というよりも、捨てられない性格の祖母が、大切に取っておいたのでしょう。父もすでに旅立ってしまったので、真相を尋ねることもできませんが、うますぎる絵に感嘆したり、突っ込みどころも満載で、笑いながら読みふけってしまいました。
父が何歳の頃かがわからなかったのですが、
「まぼろしの馬というえいがを見ました」
という一文から公開年を調べてみると、1955年。64年前(父8歳)の日記だということが発覚。鵠沼近辺の描写も多く、当時の湘南の日常を知る貴重な資料とも思えてきました。父には無許可ですが、勝手に紹介してしまいます!
鵠沼の家の裏を流れる境川に、ボートをつないで置いていた時代がありました。父はこのボートでよく遊んでいたのでしょう。昔、ウナギがあちこちに生息していたとは聞いたことがありますが、こんな風に漁師が気軽にウナギをくれるなんて、今では考えられませんね。果たして父はこのウナギを食べたのだろうか…。
1955年の江ノ島です。灯台の形状が古いのは当然ながら、現在の「江ノ島アイランドスパ」の位置に描かれた建物には「二見」と書き込まれています。ここは「二見館」という旅館だったのですね。よく見ると3軒すべての屋根が「二見」となっていますが。植木屋さんとボートで江ノ島へ出かけ、手ぬぐいで魚とりとは、粋な小学生!
縦書きの文章の途中に、左から横書き掛け算の練習が割り込んでくるという、とても読みにくい8月21日は引地川です。キリギリスを捕まえて、森永牛乳を飲むという夏休みの少年らしい過ごし方が微笑ましい。牛乳瓶の蓋をあけるピックも懐かしい。瓶の絵がやたらリアルです。
7月20日の夏休み初日から電車の絵がたくさん出てきますが、なんでしょう、この立体感。父にこんな絵の才能があったとはこの日記を見つけるまで知りませんでした。「しょうなんでんしゃ」とは東海道本線の湘南地域を走る電車の愛称だったそうです。そして、先生の赤ペンツッコミに大きく頷きたくなる、日記の短さよ。ちなみに、最初の方は「7月20日水曜日 はれ 32度」と丁寧に書かれているのに、日にちが過ぎるにつれ、温度がなくなり、天候がなくなり、曜日がなくなり、この日に至っては「27」だけです笑。
こんな調子で日記は9月1日まで、毎日の算数や漢字の練習を交えながら、しっかり綴られておりました。水遊びや釣り、虫取り、お祭りや花火大会と、子供の夏休みの遊びは今も昔もそんなに変わっていないものですね。捕まえる魚や虫の種類に変化はありそうですが、今も鵠沼界隈では、近所の森や川、沼で網を振りかざす子供たちを見かけます。
幼少期にこんな体験をしていた父は、のちにボート部に入りました。釣りも大好きでした。牛乳も亡くなる直前まで飲んでいました。少年のまま大人になったような父でしたが、子供の頃のキラキラとした体験は、その後の人生に大きく影響するものだなと改めて思います。私も自然の中での遊びはほとんど父に教わりました。
いつの時代でも夏休みは、絵日記に描き足らないくらい、充実の毎日を過ごせたら良いですね。子供たちが思い切り遊ぶことのできる豊かな自然が未来にも残りますように。
あの路地を曲がれば。〜雑誌編集者の鵠沼ライフ〜
鵠沼の自然を感じながら暮らす編集者が、
当コラムの執筆者、尾日向さんの発行しているスノーカルチャー誌
『Stuben Magazine』の公式ウェブサイトはこちら:http://stuben.upas.jp
ライター情報
尾日向 梨沙
編集者。東京都出身、藤沢市鵠沼在住。出版社勤務を経て、現在はフリーランスでウィンタースポーツを専門に取材、執筆。2015年に北海道ニセコの写真家とともにスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を発行。2019年より鵠沼の国登録有形文化財と周辺の緑を守る活動を開始。『松の杜くげぬま』管理人として様々なイベントを開催している
https://www.facebook.com/matsunomorikugenuma
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