ショップやコミュニティスペースが入る昭和な古民家長屋「藤浪荘」

JR辻堂駅西口を降り、海側に向かって13分ほど歩いた住宅街の一角に建つ築60年の長屋住宅「藤浪荘」。昭和のノスタルジーを感じさせる空間が心をくすぐります。

こちらの「藤浪荘」には、以前記事でご紹介した「Leather Room Bluno 湘南辻堂」が入っているのですが、新たに「レンタルカフェ&スペースfujinami」、「リトルツリー辻堂ハウス」という2つの店舗が加わり、店舗付き長屋住宅として今話題を集めています。

この古民家長屋にどうしてたくさんの人が集うのか、その理由を取材してきました。

  • 昭和当時、テラス式のアパートはとても先進的なものだった

店舗付き長屋住宅「藤浪荘」が生まれたわけ

元々は住居専用だったという「藤浪荘」。老朽化もあり空室が長く続いていたそうです。そのような時、建物の管理者・加藤和正さんの友人である「Leather Room Bluno 湘南辻堂」のオーナーとなる宇野裕貴さんから「アトリエを探している」という話を受け、よかったら使わないかと提案したのだとか。

当初から店舗として貸し出すことを予定していたわけではなく、友人の相談に応える形で2年前に店舗付き長屋住宅へと生まれ変わることとなったのです。

砂壁やレトロな窓際、お風呂場のタイルなど昭和の面影が色濃く残る藤浪荘。そんなノスタルジーすら感じさせるこの場所には、どのような店舗があるのでしょうか。

  • 左から「Leather Room Bluno 湘南辻堂」宇野さん、「リトルツリー辻堂ハウス」野村さん、「藤浪荘」の管理者・加藤さん

  • 昭和型板ガラスが懐かしい窓際

「レンタルカフェ&スペースfujinami」~お客さん自身が、体験を企画・楽しむ場所~

「レンタルカフェ&スペースfujinami」は「藤浪荘」の管理者・加藤さんがオーナーを務めます。個性溢れる出店者が、日々入れ替わりでさまざまなサービスを提供するというユニークな店舗。「趣味や特技を活かし『何かを始めてみたい』と思った方が『気軽にやってみよう! 』と行動に移せる場所を目指してつくりました」と加藤さんは話します。

「私自身も未経験のことに挑戦してみようという思いで、店舗をスタートしました」と加藤さん。キッチンカウンターやテーブル、イスも加藤さんの手作りです。

店内は1階がカフェスペース、2階がフリースペースとなっています。1階カフェスペースは、曜日限定のお料理教室や飲食営業などで利用されています。飲食店経営を考えている方が最初のステップとして出店されることも多いのだとか。実際ここでの出店をきっかけに、開業された方も出ているのだそう。

2階のフリースペースは、各種教室やワークショップの開催、写真撮影のスタジオとして利用されています。風通しがよく、静かで落ち着いた雰囲気なので、ヨガやピラティスなどの利用にもぴったりです。

「利用者の多くは健康や食、環境に対して意識の高い方が多い」と加藤さん。コロナ禍で変化しつつある「人や環境への関心」に対する想いや活動を共有する場所としても利用されているようです。

  • 店舗1階・調理場付きのレンタルスペース

  • 料理教室から飲食店営業までさまざまな用途で使われている

  • 店舗2階のフリースペース

  • フリースペースで開催されたヨガ教室の様子

「リトルツリー辻堂ハウス」~だれでも居られる、みんなのできるが集まる場所~

続いての店舗は、保育士の資格を持ち、保育園園長の経験を持つ野村直子さんが代表をつとめる「リトルツリー辻堂ハウス」。みんなの居場所となるような、誰もが気軽に集まれるコミュニティスペースとして運営しています。

「さまざまな経験を通して、育ちあいたい」と話す野村さん。総勢40名の仲間たちと店舗のリフォームに取り組んだといいます。壁の漆喰には野菜から生まれた「ベジタウォール」という安全な塗り壁材を使用し、子ども達と一緒に夢中で塗ったのだそう。

  • 室内にはオムツ替え台も用意。親子で安心して利用できる

  • 子ども達も楽しみながらリフォームに参加

「リトルツリー辻堂ハウス」を始めたきっかけは「コロナ禍で孤立してしまう人が増えるのではないかと思い、何かしたいと思ったこと」だったと野村さん。

「親子でお弁当を持ってきてゆっくり過ごしたり、ふらっと一人で来て静かに本を読む場所として使っていただいたり、誰でも利用ができて、集まる人によってつくられる場所。その時々で利用形態が常に変化していく 、そんな場所にしたいと思っています」と野村さんは話します。

近所のパパさんが赤ちゃんをおんぶして立ち寄ったり、みんなで勉強会を開催したりといった光景も見られていて、人と人が自然とつながる場所になりつつあるようです。

「藤浪荘には独特の時間が流れています。昔の長屋そのままに、誰もがゆるくつながりながら過ごすことのできる場所。それが魅力ですね」と野村さん。

地域コミュニティを支える場として、地元の方に親しまれています。

  • 店舗1階のフリースペース

  • ワークショップなども開催される店舗2階のくつろぎスペース

  • 絵本やおもちゃも置かれている

  • 運営は利用者の寄付で成り立っている

「Leather Room Bluno 湘南辻堂」~革ものづくりを体験し、魅力に触れる場所~

3店舗目は、レザークラフトの販売やワークショップなど「革ものづくり」体験を提供する店舗「Leather Room Bluno 湘南辻堂」。

オーナーの宇野裕貴さんは、店舗を借りた当時を思い返し「第一印象は、土壁や畳、昔ながらのすりガラスの内装は所々朽ちた状態で『やばい! 』と感じました。本当に衝撃的で印象に残る物件でしたね」と笑います。

「ですが、2階の窓からの見晴らしが良く、心が落ち着く場所。製作作業をするには最適だと感じました。他の物件にはない不思議な魅力があります」

多くの方に革の良さを知ってもらいたいとこの場所に店舗をオープンした宇野さん。その想いは届き、今では東京・埼玉・千葉など、遠方から訪れる客も多い人気店となっています。自分用はもちろん、大切な方へのプレゼントとしてワークショップに参加する方も増えているそうです。

  • 自分だけのレザーグッズを製作できるワークショップを開催

  • 店舗2階は心地よい風が通り抜けるアトリエ

この春には、ここ藤浪荘とは別の拠点として山、川、自然に溢れた西丹沢に「Leather Room Bluno 西丹沢」をオープンしたとのこと。元茶室の平屋古民家をセルフリノベーションしたアトリエだそうです。「西丹沢山間部・箒沢(ほうきざわ)の壮大な景観もぜひ楽しんで欲しい」と宇野さん。

宇野さんの次なる目標は「レザークラフトを、より多くの学校の授業で取り入れてもらうこと」。さらにたくさんの人々に革の魅力を伝えていきます。

  • 自然に囲まれたアトリエ「Leather Room Bluno 西丹沢」

  • 「Leather Room Bluno 西丹沢」では、大きな窓から丹沢山系を一望

新旧混在のおもしろさと魅力が詰まった「藤浪荘」

「藤浪荘」では店舗の垣根を超えた取り組みも行われています。例えば、今年5月には「リトルツリー辻堂ハウス」と「レンタルカフェ&スペースfujinami」合同で、野菜や手作り小物の販売、ワークショップを体験できるプチマルシェを開催したそうです。また、「藤浪荘」として月に一度、ビーチクリーン活動や環境問題の勉強会なども行っています。

ここでの出会いから利用者に輪が生まれ、みんなで新たなイベントや出店を企画することもあるのだとか。「何かをはじめたい! 」という想いを持った人が集まる場所ならではの面白さではないでしょうか。

  • 「藤浪荘」らしいアットホームなプチマルシェ

  • 小さいながら無農薬の畑もあり、3店舗共同で管理している

今こそ大切にしたい温度を感じる「出会い」の場

コロナ禍の今、他人と物理的に距離をとることが求められ、オンラインなどを通じたコミュニティは増えるも、リアルな場でのコミュニティは減ってきているように思います。

どこにいてもつながれるオンラインの良さを実感する一方、人と人が場所や時間を共有することでしか生まれないことがあると強く感じるようにもなりました。‟温もり”や‟安らぎ”もその1つではないでしょうか。

人と人が向き合い、言葉を交わし、心通わせ、つながることの重要性が浮き彫りとなったからこそ、今「藤浪荘」に多くの人が訪れているのかもしれません。

お散歩がてら、ふらりと「藤浪荘」を訪れてみませんか?きっと、新しい世界と出会いが待っていますよ。

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