湘南で暮らす人々

暮らしに馴染み、彩りを添える洋服を。パタンナー・木地谷良一さんの日常から生まれる美しい型

豊かな自然と文化が薫る街・鎌倉。この地の空気感をそのまま吹き込んだかのような柔らかで美しい洋服をつくりだす人物に出会いました。「KICHIYA PATTERN」の木地谷良一さんです。

パタンナーとして数多くのブランドに携わり、その技術と感性を磨いてきた木地谷さん。現在は、オリジナル親子服の製作・販売を行う作家としても活動しています。

木地谷さんの手掛ける洋服は、どれも温かく、日々の生活を明るくしてくれるものばかり。それは木地谷さんの鎌倉での暮らし、服への想いが映し出されているものでもありました。

パタンナーならではの服づくり

大手衣料メーカーやアパレル企業に勤め、パタンナーとしてラグジュアリーブランドからカジュアルブランドまで幅広く経験を積んできた木地谷さん。独立後も数多くのブランドから依頼を受け、デザイナーの想いを形にしています。

そして、これまでに培ってきた高い技術力と豊かな感性を活かし、現在はパタンナーの枠を越えた創作活動にも取り組んでいます。それが、デザインから縫製まですべてをご自身で手掛けるKICHIYA PATTERNオリジナルの服づくりです。

KICHIYA PATTERNでは婦人服をメインに子ども服も展開。鮮やかな色彩と思わず触れたくなる素材感、柔らかで動きのあるフォルム、そして着心地の良さを特徴としています。

婦人服は、主にサイズフリーの展開とし、体の曲線に沿うようなフォルムをつくることで、体のしめつけなどのない着心地の良さを実現。使用する生地は天然素材を中心とし、安心と心地良さを提供しています。そして、切り替えや生地の重なりなどに特徴を持たせ、ふんわりと華やかなシルエットをつくり出しています。こうした複雑なラインは、高い技術があるパタンナーだから生み出せるもの。

また、KICHIYA PATTENの鮮やかな服は鎌倉の豊かな自然の中で美しく映え、風が吹くとそのシルエットはより華やかな表情を見せてくれます。

  • ボリューミーでありながら軽やかさがあるデザインが特徴的

  • 動きやすく、かわいらしい表情を見せる子ども服。同じ生地でリンクコーデを楽しむ親子も

  • パタンナーならではの技が光る切り替えで、洗練された印象とかわいらしさをプラス

  • 男性も着用できるユニセックスの服も。肌触りの良い天然素材のフェイクファーとコーデュロイの組み合わせがやわらかい印象

人を想い生まれるKICHIYA PATTERN

パタンナーである木地谷さんがデザインから縫製までを行う服づくり、それはご家族へのプレゼントがはじまりだったそうです。

「妻の誕生日に一着の服をつくる、それが毎年の我が家のイベントだったんです。息子が生まれてからは息子の服もつくるようになって。“せっかくなら皆さんに向けてつくってみたら?”という妻の言葉をきっかけに、KICHIYA PATTERNとして服づくりをはじめました」と木地谷さん。

“着る人に喜んで欲しい、笑顔になってほしい”という想いはKICHIYA PATTERNの原点であり、それは今、袖を通すすべての方に向けられています。

「年に一度開催している受注会は大切な時間なんです。そこでお客様とお会いしてお話をすることで、その方を想像しながら服づくりを行うことができる。それがとても楽しくて、大きなやりがいを感じています」

こうして想いを込めて丁寧につくられた服は、お客さんにとって大切に着続けていきたい特別な一着となるはずです。受注会には、以前に木地谷さんが仕立てた服を着て来場されるお客さんも多く、服がその方に馴染んでいる姿を見ると‟普段からたくさん着ていただけたんだ”と嬉しくなるそうです。

  • パターンを形にするカッティングプロッターを備えた自宅仕事場

  • パターンを引く木地谷さん

家族で支え合う暮らしと仕事

暮らしの中で気持ちよく着てもらえる服をつくりたいとの思いから、必ずしていることがあると木地谷さん。

「どの服もまず妻に日常の中で着てもらって、着心地の良し悪し、不便を感じるところなどを教えてもらっているんです」

こうして奥様・ゆうりさんの体験をもとに、日常のシーンで心地良く着られ、それでいて美しく輝いて見える服がつくられていきます。木地谷さんの創作活動において、ゆうりさんの存在はとても大きいようです。

「私のモノづくりは妻に意見を聞くところからはじまるんです。妻はゼロから何かを生み出すことができる人。本当に尊敬できる部分でもあって、それを私が広げて形にすることでKICHIYA PATTERNができているんです」

ゆうりさんは、以前、映像制作のお仕事をされていたそうで、その豊かなクリエイティビティに支えられることも多いと木地谷さんは話します。

一方で、現在、得意な料理を活かし、ゲストハウス「亀時間」で週末限定のカフェをオープンしているというゆうりさんも、その仕事において木地谷さんに支えられているといいます。

「私ってすごく大雑把なんです。だから盛り付けとかも得意ではなくて(笑)。片や主人は細やかで、何事も丁寧。だから、彩りやバランスなどアドバイスをもらっているんです」とゆうりさん。

これは生活の場面でも同じとお二人。得意なことを活かし、不得意なことを補い合うことで、仕事も暮らしも豊かなものとなっているようです。

  • ゲストハウス「亀時間」のカフェでは発酵食品やグルテンフリーを中心としたメニューを提供

  • 「亀時間」を会場に不定期で発酵食品をテーマとした料理教室も開催しているそう

鎌倉での暮らしが与えてくれるもの

そして、鎌倉という場所も木地谷さんにはなくてはならない要素の1つ。

「鎌倉という場所は、皆さんがそれぞれにファッションを楽しんでいらっしゃいますよね。色もとっても豊か。発色良く、ふんわりと風通しの良い服というKICHITYA PATTENの1つのスタイルはそんな光景から生まれたところもあるんです」と木地谷さん。

また、心にゆとりをもって仕事ができているのも穏やかな空気に包まれた鎌倉での暮らしがあるから、と木地谷さんはいいます。家族ができ、鎌倉に移住してからは、それまで気にかけていなかった日常の何気ない変化などにも目が向くようになったそうです。

「毎朝、家族3人で庭を眺めながら朝食をとり、何の花が咲いたとか、何の虫がいるとか、そんな季節の移ろいを感じながら過ごす時間に安らぎを感じています」と木地谷さん。

「庭にやってくるのは虫や動物だけじゃないんですよ。いつの間にか、息子のお友達も遊びにきていたりして(笑)。そんなふうに大切な“家族”が増えていく…、とっても嬉しいことですよね」とゆうりさん。

互いに微笑み合いながらそう話すお二人の間には、とても優しい時間が流れています。

  • 家族で庭を眺める幸せな時間

服がつなぐ大きな輪

もう1つ、木地谷さんには精力的に取り組んでいるプロジェクトがあります。ニットデザイナーの渡部まみさんとともに立ち上げた型紙販売の通販ブランド「TOWN」の活動です。渡部さんがデザインし、木地谷さんがパターンを担当。縫製に慣れていない方にも服作りを楽しんで欲しいと、できる限り優しい解説を加えた仕様書を縫い代が付いたカット済みのパターンとともに提供しています。

「Instagramを見ているとTOWNの型紙からつくった服をアップしてくれている方もいらっしゃるんです。生地や色の組み合わせなどそれぞれに個性があって、見ているとこちらも楽しくて、嬉しくなりますね」と木地谷さん。

こうしてSNSでも盛り上がるTOWN。トレンドを押さえたベーシックウェアは多くの服好きの心を捉え、型紙販売のみに留まらずパターンブックも出版し、好評を得ています。KICHIYA PATTERNとは異なる広がりを見せているようです。

「さまざまなブランドやTOWNでの仕事では、たくさんの刺激を得ることができます。自分の中になかった発想に出会えることもあって、大切なものですね」と木地谷さん。

  • 2021年11月に発売されたパターンブック「TOWNのニュースタンダードコート」(文化出版局)

顏の見える服であり続ける

今後は、より多くの人にKICHIYA PATTERNの服を届けていきたいと木地谷さん。

「現在、神奈川県・二宮町にある日用品店『日用美』さんにKICHIYA PATTERNの服を置いていただいているんですが、そこをきっかけに知っていただけることも多いんです。なので、受注販売をメインとしながらも、ショップでの展開も含め、皆さんに触れていただける機会をつくっていけたらと考えています」

ただ、KICHIYA PATTENが大切にしているのは“顔の見える服づくり”。これからも袖を通す人を想像しながらパターンを引き、お客さんにとってもつくり手の顔が見える距離感でありたいと木地谷さんは話します。

身近な人々を想い、暮らしの温度を感じながら服づくりを行っている木地谷さん。その手によって生み出される美しい型は、これからも多くの人々の日常を輝かせてくれることでしょう。

  • リビングとつながる仕事場。家族の音を聞きながら、木地谷良一さんのパターンが生まれていく

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