湘南のブランド牛「ちがさき牛」を育てる、若手生産者の想いと次なる夢

湘南エリアのスーパーや精肉店などで見かける「ちがさき牛」。赤みの色が濃く、脂身とのバランスが良いと評判のお肉で、飲食店のメニューにも並ぶブランド牛です。

この「ちがさき牛」、一体どこで誰が育てているのか、気になったことはありませんか? 生産者のもとを訪ね、「ちがさき牛」にかける想いをお聞きしました。

現在は3代目が経営。ちがさき牛を生み出した齋藤さんご兄弟

湘南北部に位置する茅ヶ崎市芹沢、竹林に囲まれた緑豊かな場所にある「齋藤牧場」でちがさき牛は飼育されています。こちらの牧場を経営するのは3代目となる齋藤さんご兄弟です。今回は弟の忠道さん(39歳)にお話をうかがいました。

  • 広々とした牛舎は、常に清潔な環境が保たれている

「齋藤牧場」は、北海道や東北から生後10か月の子牛を買いつけ、出荷できる状態になるまでの約20か月間育てる肥育農家です。

昔この茅ヶ崎の里山地域では、各家庭1軒に1頭の牛がいたのだとか。その理由は「たい肥」を得るため。田畑の多いこの地ではたい肥が不可欠だったのです。

齋藤家では、昭和17年に初代となる忠道さんの祖父が乳牛を1頭飼い始めます。乳牛は乳房炎をおこすとミルクを搾る管理が大変なことから、お父様の代で「乳牛」から「肉牛」へシフト。ここから「齋藤牧場」がスタートします。

  • 毛並みが艶やかな牛たちは、とても穏やか

お父様と忠道さんは「こだわりの飼料で丁寧に育成する牛を地元ブランド牛とし、地域を活性化させていこう」と思案。 こうしてブランド牛・ちがさき牛が誕生します。しかし「ちがさき牛」が世に出まわりはじめた矢先、お父様が急逝。 齋藤さんご兄弟は、30代という若さで牧場を継ぐことになりました。

今は交雑牛(父親が黒毛和牛、母親がホルスタインのかけあわせ)を70頭、黒毛和牛を20頭育成し、毎月4頭を出荷します。ちがさき牛と名の付く肉牛は「齋藤牧場」の牛のみで、交雑牛の9割がちがさき牛、残り1割がやまゆり牛と分けられます。

かながわブランドに認定されている「ちがさき牛」

そして、このちがさき牛、神奈川県牛肉共進会で何度も最優秀賞を受賞しているんです。おいしさが評判を呼び、飲食店オーナーからのオファーも後を絶ちません。

そのおいしさの秘密は飼料にあるそう。「人の体に良いものは、牛にも良い」という考えから、飼料には海藻や大麦、トウモロコシやミネラルなど10種類以上の素材をブレンドしているといいます。栄養素をたっぷり含んだ飼料を与え、愛情豊かに育てます。

そんなちがさき牛の肉質の特徴は、なんといってもサラッと溶け出す上質な脂。一般的な「サシ」とは異なり、脂身が苦手な人でも食べやすいお肉です。豊かなうま味と弾力ある食感で、少量のお肉でも満足感を得られます。

ちがさき牛の食べ方として、「サッと炒めて、わさび醤油で食べるのがオススメ」と話す忠道さん。筆者もカルビを購入して試してみましたが、わさび醤油が肉の甘みを際立たせるのです。素材の良さゆえの贅沢な味わいでした! 

  • 飼料にブレンドされる素材は、海藻や大麦、トウモロコシなど10種類以上

  • 赤身が多く、くどさのない脂身のちがさき牛

「肥育農家」の苦楽と信念

牧場で働く忠道さんの1日はどのようなものなのでしょうか。毎朝7時前に起床し、牛の餌やりをするところから始まります。午前・午後ともに牛のお世話や牛舎の管理、牛肉の配送や納品など、体を動かす仕事が続きます。そして17時過ぎに1日の業務が終了。

日々の世話があり、滅多に旅行に行けないのが辛いところと忠道さんは話します。一方で、「牛を飼うだけではなく、ここで直売し、お客様の口に入るところまでの責任を全うできること」がやりがいとなっているそう。

細身でスタイルの良い忠道さんは、仕事が終われば社会人サッカーサークルへ顔を出したり、地元消防団の活動に参加したりしています。消防団には10年近く在籍しているそうです。SUPなど湘南らしい海のレジャーも楽しんでいるのかと思いきや「挑戦してみたものの全然ダメでした。やっぱり陸がいいですね!(笑)」とのこと。

とても実直な人柄な忠道さん。「理想や生き方に影響を与えた人や、尊敬する人は?」と聞くと「父です」との答えが返ってきました。「あとを継いでほしい」とは一度も言わなかったという今は亡きお父様。3代目として牧場経営をする今日、365日ひとりで牧場を背負ってきた父の偉大さを、改めて実感されているそうです。

  • 食の責任を感じながら日々奮闘する若手肥育農家・齋藤忠道さん

「ちがさき牛」を買って、味わえる牧場へ

「齋藤牧場」には、隣接した直売所があります。こちらではちがさき牛のカルビ、サーロイン、切り落としといったさまざまな部位を、家庭用サイズのパックでも販売。鮮度の良いちがさき牛を、小売店よりも2割ほど安く買うことができます。

さらに、忠道さんは牧場の敷地内にちがさき牛を楽しめる飲食店をつくることを計画しているといいます。既に少しずつ敷地を整えているとのことで、近い将来、湘南にまた一つ注目のスポットが生まれそうです。

ちなみに、「齋藤牧場」からほど近くにあるカフェ&グリル「Fika Room(フィーカルーム)」、藤沢駅近くの本格イタリアン「La Balena (ラ・バレーナ)」、茅ヶ崎駅近くのイタリア食堂「BARRIQUE(バリック)」などでもちがさき牛が味わえるようです。

ちがさき牛は地元の味として親しまれ、地産地消にもつながっているのです。皆さんも、湘南のブランド牛を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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