湘南で暮らす人々

ハワイの精神とともに本場のフラを広める~Hula Halau ‘O LeiLani代表・小川美穂子さんが魅せられたフラの世界

ハワイ州ホノルル市・郡と2014年に姉妹都市協定を締結している、穏やかな海辺の街・茅ヶ崎。ハワイといえば、ハワイアンミュージックにのせてしなやかに踊る「フラ」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

茅ヶ崎市がホノルル市・郡と姉妹都市となる以前より、この街からフラの魅力を発信されていた方がいます。フラスタジオ「Hula Halau ‘O LeiLani(フラ・ハラウ・オ・レイラニ)」代表の小川美穂子さんです。

小川さんは、ハワイ最高峰のフラの大会『Merrie Monarch Festival』 で2009年にアウアナ(現代フラ)の部で第2位、2012年にアウアナの部で第3位、カヒコ(古典フラ)の部で第5位に輝いているすごいダンサーさんなのです。

大自然の中で音楽を届けるように踊る小川さんの姿はとても美しく、心地良く、その時間の中にずっといたいと思わせてくれます。フラはハワイの人々の生活の中にある踊り。だからこそ、この美しいフラにはおおらかで温かいハワイの人々の考え方や物事の捉え方を学ぶヒントはあるのではないか、そんな思いから小川さんにお話をうかがってきました。

ハワイの歴史を伝えるフラとは

ここで、フラとはどのようなものなのか簡単に触れたいと思います。フラは、文字を持たなかった当時のハワイ・ポリネシアの人々が、神へ捧げることや伝承を目的として始まった踊りとされています。そのため古典フラでは、ひょうたんをくりぬいた打楽器「イプ」などのリズムとチャント(詠唱)にのせて踊ります。神に捧げる神聖な踊りとして当時は男性によって踊られていたようです。

アメリカから宣教師が上陸し、神(=ハワイの精神)と関係の深いフラを禁止とする時代もあったのですが、後に西洋文化と融合してハワイアンミュージックにのせて踊る現代フラが誕生することとなります。

  • 古典フラではティーリーフを集めてつくったレイなどを身に付けることが多い。中央の小川さんが手に持つのはひょうたんをくりぬいて作られた打楽器「イプ」。踊る前に身を清めるなど、神に捧げるダンスという色が濃い

本場のフラを学びたいとハワイへ

小川さんとフラの出会いは旅先のハワイ。その美しい踊りに魅了された小川さんは、帰国後、日本でフラを学び始めます。学生時代にジャズダンスやチアダンスをしていた小川さんは、そのセンスを発揮し教室を開けるまでの実力を身に付けるも、本場で観たフラとは何か違うと感じていたそうです。

自分の理想のフラを探していた小川さんは、ここで運命的な出会いを果たします。ハワイで活躍をされていたクムフラ(フラの先生)のオブライエン・エセルさん、そしてアラカイ(先生の一番弟子)だったトレーシーさんとの出会いです。

  • クムのオブライエン・エセルさんとともに

  • トレーシーさんと出会った頃の小川さん

超えられない壁の中で生まれたフラへの想い

期待を胸にハワイへ渡った小川さんですが、ある壁に直面することに。オブライエン・エセルさん、トレーシーさんのもとで学ぶ日々は、刺激的であると同時に、超えることのできない「ハワイの受け継がれる血・文化」を感じさせるものとなります。

「フラは精神的なところも多い踊りです。代々受け継がれる中で育っていくもの。だから、私がいくらフラを踊っても本物にはなれない、そのことを突き付けられました。このある種の諦めも私には大切なことだったんです」と小川さん。

育った土地と文化、ファミリーのストーリーが、音楽と踊りとして表現されるというフラは、自身の中にあるマインドそのものともいえるのです。

小川さんは、その事実と向き合いながらも、ハワイの歴史や文化の理解を深め、フラに敬意を払って踊るようになります。そしてハワイの言葉を本当の意味で理解し、その言葉を踊りで伝えていきます。小川さんの情景が浮かび上がるようなフラは、この経験のうえに成り立っていたのです。

  • ハワイのチームメイトとフラに打ち込んだ日々

  • フラ最高峰の大会『Merrie Monarch Festival』のステージへ

伝統や文化を伴う本物のフラを広める

ハワイでつながれた関係は現在も続いており、小川さんにとって大切なものとなっています。トレーシーさん、その旦那さんのケアべさん、そしてそのファミリーは、ハワイ語に精通しており、かつ音楽家一族でもあるそうです。

小川さんは、彼らがつくりだした音楽、振りをその想いごと受け取り、教室で生徒に教えています。「ハワイの伝統や文化の中で生まれるフラを広めたいのです。それができる環境を持てたことはとても幸せなことです」と小川さんは話します。

  • ケアべさんとトレーシーさん、そしてそのファミリーとの親交は小川さんの宝となっている

小川さんの教室では、子どもから大人まで多くの生徒がフラを学んでいます。そして、フラ最高峰の大会『Merrie Monarch Festival』には2009年からほぼ毎年出場を果たし、2017年には生徒2人が参加しカヒコの部で2位、アウアナの部で1位に輝きます。他にも2018年『Hula Oni E Hawaii大会』のKane Groupでの優勝など、その受賞歴は挙げればきりがないほど輝かしいものとなっています。

小川さんは、生徒に対して、言葉の大切さ、情景を思い浮かべて踊ることの大切さを常に伝えています。その想いを生徒の皆さんが理解して踊るフラだからこそ、ハワイの人々の心にも届くのではないでしょうか。

  • Kane Group優勝、Kane Solo優勝、Kaikamahine‘Auana2位、 Kaikamahine solo3位などを果たした2018年『Hula Oni E Hawaii大会』

  • 1つ1つの姿勢、動き、そこに込められた想い――本場のフラを伝える小川さん

ハワイに認められた、現地大会での優勝

小川さんには、中でも大きな意味を持つ生徒さんの受賞があります。それは、2019年のハワイ・マウイ島で開催された『Ku Mai Ka Hula Maui』のカヒコの部での優勝です。小川さんの教室は、アウアナの部は常に入賞を果たすほどになっていたのですが、チャント(詠唱)とともに踊るカヒコの部は入賞できずにいたそうです。

ハワイ語で唱えるチャントは日本人の小川さんにとっては相当に難しいもの。小川さんは、度々ハワイに渡りチャントの特訓を重ねてきたのです。「何度も心が折れそうになりました。でも、その甲斐あって生徒たちの優勝につながりました。この瞬間は本当に嬉しかったです」と小川さん。現地の参加者もいる中で、伝統や文化の壁を越えて優勝を果たしたのです。

  • 『Ku Mai Ka Hula Maui』(2019年)カヒコの部で優勝を果たす

ハワイスピリットにある“許すこと”の大切さ

小川さんに、“フラの美しさにも通じるハワイの人々の“おおらかさ”や“温かさ”は何なのか”という疑問を投げかけてみました。

小川さんは次のように話してくれました。「私はよく“アロハスピリット”とは何かというご質問をいただきます。それは“許すこと”なのではないかと思うんです。フラの有名なチャントの中で、いつもジェントルでいること、協調すること、我慢すること、心地良くいることが歌われています。つまり、嫌なことがあってもそれを許すこと、そんな精神がハワイの人にはあるように思います」

それは、どこか日本人の精神にも通じるところがあり、だからこそ私たちはハワイとそこで暮らす人々に心惹かれるのかもしれない、そんなことを感じました。

  • 自然と一体となり踊る小川さん

フラは永遠の憧れ

フラは小川さんにとってどんなものなのでしょうか。

「人生ですかね。自分のものにはならない永遠の憧れです(笑)」と小川さん。常に“本物のフラとは何か”を問い、真摯に向き合っている小川さんのフラは、生徒の皆さんに受け継がれていきます。そして、小川さんの目の前に情景が浮かび上がるような心地良いフラはこれからも多くの人を勇気づけ、そして癒してくれるでしょう。

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