湘南で暮らす人々

太陽のもとで手作りの暮らしを。「さんわーくかぐや」

さんわーくかぐやは、藤沢市善行にある日中支援の福祉施設。名前の”さんわーく”とは、Sun+Workを組み合わせた言葉。障害があってもなくても、共に太陽のもとで伸び伸びと身体を動かすことで「生きる力を育む」ことを大切に、活動しています。

ここを運営するのは、理事長の藤田慶子さんと木彫家である藤田靖正さん。12年前に開所して以来、年齢や種別に関わりなく地域の障害のある方を受け入れ、活動を広げてきました。さんわーくかぐやを始めたのは、慶子さんに精神疾患を抱えた娘さんがいたことがきっかけ。

「障害のある人や、親御さんが気軽に訪れてほっとできる場を」という想いから、家族の彫刻アトリエだった場所を施設として改装しました。

生きる力を育む、手作りが当たり前の暮らし場

「ここを訪れるのは、障害のある方やそのご家族だけではありません。東京や海外からもたくさんの人が来てくれます。」と靖正さんが言います。
地域や周囲の人たちとの関わりの中で育まれてきた、というさんわーくかぐや。一体どんな場所なのでしょう。

  • 坂の中腹、住宅街の一角に建つ平家が、さんわーくかぐやの入り口。

中に入ると、利用者さんたちが賑やかに迎えてくれます。土間と広い食堂のある母屋を通り、建物の裏手に出ると、目の前には竹林が広がり、階段で斜面を降りると、動物小屋が並び、小屋から出て自由に駆け回るウサギや烏骨鶏の姿が。敷地内には、梅林や畑もあります。

さらに進むと、アトリエや工作室があり、奥には山の斜面から水を捉えるビオトープの池が長閑な雰囲気をつくります。

母屋、アトリエ、工房、道具部屋など、建物は、ここに集まるみんなで改装して、手入れしてきました。木を切り、竹を割り、土を捏ね、布を縫い、家具、薪、道具、食器など様々なものを、手で作ります。畑で育てた野菜、森から拾う果樹や木の実、餌やりをしながら共に暮らす鶏の卵、海から汲んだ海水の塩が毎日の食卓に並びます。

「暮らしに必要な物は、できるだけ自分たちの手で作っています。外から買ってくれば、速いし、簡単。でも、その物が何からどうやって作られるのかを知っているのと、実際に作って理解するのは別のこと。一つ一つの行いはただの作業ではなく、暮らしの深みや時間の移ろいへの気づきに繋がります」その手の確かな感覚を見つめるように靖正さんが話します。

このような体感を大事にする暮らしが「生きる力」を育む鍵となっているようです。

ありのままの自分を表現し合い、つながる

さんわーくかぐやでは、日々の暮らしの道具だけでなく、自己表現としての創作活動も行っています。それぞれが持つ、ありのままの表現を認め合うことができるのが、アートの力。枠にはまらない個性は、表現の世界では、評価されます。作品を通じた自己承認から自己肯定感が育まれ、心が安定される方もいます。

靖正さんは、彼らの個性と表現力の豊かさを多くの人にも知ってもらうため、また他のアーティストと交流するための機会を作ってきました。

その一つに、「かぐや祭り」があります。開所した年から毎年恒例となっているさんわーくかぐやを舞台にしたお祭りには、地域の飲食店や雑貨店などが出店を出し、さんわーくかぐやのメンバーも、こここで採れた果樹から作ったジュースなどを販売します。木と竹で作ったステージでは、歌や踊りが繰り広げられ、華やかに盛りあげます。みんなで大きなことを作り上げるという挑戦として、また普段の活動を発表する場としても、大きな役割を担ってきました。

また、10年前からは、新潟の妻有エリアで開かれる「大地の芸術祭」での田島征三さんの作品製作にも協力。ボランティアスタッフと共に、大型作品の制作をお手伝いしてきました。いつもとは違う環境を楽しみにしているメンバーも多く、そこで得る体験から視野を広げ、個人の成長にもつながることが多いそう。

またその活動を通して、現地の人との交流が生まれている、とのこと。

「地域に根付いた第一次産業は、さんわーくかぐやの活動とも重なる部分が多く、農家さんの手捌きを真似、土との関わり方を感じ、働くことの姿勢などを学びます。実際、竹細工、木工、染めなどの手仕事も、世界中に通じる言語ですよね」

このように事業所での活動から暮らす地域へと、また地方との関わりの中から世界へと視野が広がります。

夢を語ることで、世界を広げる

「今後は、様々な国との交流も、行っていきたいです。福祉事業は国の制度の中で成り立っているので、そのルールの中だけでできることを考えていくと、制限に縛られてしまう。世界の先駆例を見ていると、制度の枠を超えて行うべき事がたくさんあることに気付きます」と靖正さんは言います。

多様なメンバーがそれぞれの個性を生き生きと輝かせるさんわーくかぐや。それは、コツコツと重ねる暮らしの中で育まれる「生きる力」を胆力に、新しいことに挑戦し続けているから。そしてその中心に靖正さんのように、みんなの夢を語り、楽しみながら現実にしていく存在がいるからだと感じました。

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