湘南で暮らす人々

鎌倉・梶原の高台から。地域コミュニティーを育むパン屋さん「日時計 パンとおやつ」

鎌倉市のちょうど中心あたりに位置する梶原。その中でも高台になっている一帯は、市の保全森に囲まれ避暑地のような趣が感じられるエリアです。

そんな梶原の住宅街に、週に2回だけ玄関先で「日時計 パンとおやつ」という名のパン屋さんをひらく一軒家があります。人通りの少ない坂の上にあるにも関わらず、お昼過ぎには売り切れてしまうほど固定ファンをしっかりとつかんでいます。今回は「日時計 パンとおやつ」の店主である武内裕美さんにお話を伺いました。

昔から地域のコミュニティーを育む場だった

「日時計パンとおやつ」のある場所は、険しい坂の途中の、一旦平になるところ。この家は、もともと旦那様のご実家。近隣の住人や配達に来た人が、休憩がてらこちらの玄関先でお茶を飲む、そんな光景もよくあったそうです。

ご両親が亡くなったのを機に、生まれ育ったこの地に、武内さんご一家が東京から住み継ぐことに。
お店の名前である「日時計」は、約60年前、最初の家が建てられた時から庭にある青銅製の日時計に由来しています。今も緑深い庭の中で、この家を見守るように鎮座しています。

  • 庭の緑の中にある青銅製の日時計

ささやかな看板は、週二回のお楽しみ

「日時計 パンとおやつ」が開店するのは、金曜日と土曜日の週2回のみ。玄関前の“ささやかな”看板で開店をお知らせします。パンを買いに来た人は、玄関扉を開けて中へ。ノックする人、インターホンを押す人、挨拶しながら入ってくる人など、反応は人それぞれだそうです。

  • 看板がでていると営業中

  • 店主の武内裕美さん

お客さんは近隣の常連さんが多いのかと思いきや、横浜や藤沢から来られる方もいらっしゃるとのこと。
住宅街なのであえて目立つ看板は設置しないので「迷われることもあるかも…」とのことですが、鎌倉の自然を観察しながらゆっくり探してみるのも、この店を訪ねる楽しみのひとつになると思います。

確かな技術で作られるパン、安心というこだわり

パン売り場となっている玄関先の棚の上には、菓子パン、惣菜パン、ピザ、シフォンケーキ、クッキーなどのパンとおやつがところ狭しと置かれています。武内さんのレパートリーは200種類ほどあり、その中から日替わりで20種類ほどだしているそう。家の玄関先ということで家庭的な雰囲気がありますが、並べられているパンは、食感といい、形といい、確かな技術を感じさせるもの。毎回売り切れてしまうのも、納得です。

お年寄りでもお子さんでも安心して食べれるように、原材料選びからこだわっているそう。小麦は安全と保証された国産のものを使用、砂糖は最低限しか使わず季節によって種類を変える配慮など、美味しいだけでなく安心安全なパンを目指しています。

  • パン売り場の様子。後ろにはパンや季節にまつわる絵本が飾られる

  • パンは、前もってLINEで予約もできる(LINE登録はお店のホームページから)

大好きな場所で、パンを焼く

かつてホテルサービスや自然食に関わる仕事をしていたという武内さん。昔から食に関心があり、独学でも勉強していたそうです。食への関心から、家族へのおやつは当たり前のように手作り。特にパンを美味しそうに食べてくれたので、いつのまにかレパートリーが豊富になったとのこと。

2015年、これまで学んできたことを活かしたいと、自宅の玄関先で「日時計 パンとおやつ」をオープンします。
自分一人で無理なく楽しみながらできるペースを維持したいと、週2回の営業に。開店が何故土・日じゃなくて金・土なのかというと、武内さん一家が日曜日は家族で過ごす日と決めているのと、平日しか来れない人もいるだろうという配慮からだとか。

自宅でやることにしたのは、大好きな場所でパンを焼きたかったから。武内さんはこの家の造りや庭の雰囲気、周辺環境に惚れ込んでいて、他の場所でやるなどは考えられなかったそうです。

  • 広い玄関先を、そのままパン売り場に

  • 玄関脇に、パン工房への扉が

坂の途中の一軒家は、武内さんがお店を始めたことで、また人が訪ねてくるようになりました。今ではパン屋だけでなく、料理レッスンや私設図書館と武内さんの活動も広がってますますにぎやかに。

梶原の住宅街では、今も昔と変わらず地域コミュニティーが育まれています。

  • 併設の「スタジオ日時計」では、料理教室も開催

  • 私設図書館「ひどけい文庫」としての活動も

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